短編2
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「お待たせ」
サンジはベッドサイドに読んでいた本を置き、自身の横をポンポンと叩く。そこに体を滑り込まして熱が逃げてしまわないようにサンジの方に体を寄せる。ぎゅっと包まれた体は着痩せするのか触れると体の厚みに未だに驚いてしまう、シャツの下に隠された胸筋を枕にするように頭を預ければ力が入っていないせいかフカフカと柔らかい。ナマエちゃんのえっち、と頭上から茶化すような声が聞こえるが私はわざと聞こえないフリをして頭をグリグリと押し付ける。サンジは私の髪を梳くように頭を撫でる、この船上暮らしでキューティクルが守られているのは私ではなくサンジの努力のお陰だ。ドライヤーからヘアケア、私の髪に妥協を許さないサンジは全てを請け負って私の髪にケアを施してくれる。
「サンジって髪フェチ?」
「おれ?君フェチだけど」
「いや、そんな当たり前みたいな顔されても困る」
息が触れ合うくらい近くに顔を寄せたサンジは私の額から順に一つ一つの顔のパーツにキスをしていく。
「まあるいおでこ、ちょっと吊った眉毛、可愛い鼻、おれを映す二つの瞳、柔らかい頬、全部におれは夢中なの」
ナミやロビンに比べたら全パーツがガラクタのような顔だ、自信を持って可愛いとも美人とも言えない中途半端な作り。それに今は素っぴんだ、ブスにきっと天秤が傾いている。
「おれは君が嫌いなところも全部好きだよ」
「……心を読まないで」
「君が分かりやすいの」
そう言ってサンジは頬に手を添えて私の低い鼻に口付けた。サンジは少し眠いのか普段から垂れている目をより甘く垂らして私に微笑み掛ける、ベッドでこんな顔をされたら弱まってしまう。つい、この空気から抜け出したくてどうでもいい話を振ってしまう私。
「今日、島でウソップの鼻みたいなお菓子を見つけたの」
「っ、くく、どんな?チュロス?」
「中にチョコが入った細長いプレッツェル」
ウソップの鼻とそのお菓子を脳内で並べて平常心を保とうとするが逆にツボに入ってしまい、二人で顔を見合わせて音量に気を付けながらくすくすと肩を揺らす。
「明日の朝、ウソップ見れなくない?」
「島で買ってウソップにプレゼントする?」
お互いを指差して、悪いなァ、ナマエちゃんは、サンジだって、と罪を擦り付ける私達はきっと同罪だ。明日、二人でウソップにツッコまれてまたケラケラと笑い転げる未来が見える。
ダラダラと雑談をしていれば、サンジの指がベッドサイドの時計を指差す。もう、眠る時間だね、と穏やかな声がこの楽しい時間の終わりを匂わせる。サンジと二人で眠りにつくようになってから私は朝が嫌いになった、朝は私からサンジを取り上げる。決まった時間に起きるサンジを早く寝かせてあげないといけないのに私の面倒くさい部分がそれを邪魔する。
「……朝が来なきゃいいのに」
「どうしてだい?」
「まだ、サンジを独り占めしてたい」
眠気に任せて普段言わないような我儘を口にする私。サンジのシャツをぎゅっと握れば、サンジはそれ以上の勢いで私の体を自身の腕の中にしまい込む。
「……ッ、まじでさぁ、おれをどうしてェの」
「どうもしないけど」
「エッ、ツンが早ェ……切り替えが早ェ君も可愛いけど……もっと、おれのこと欲しがって?ね?」
垂れた瞳が子犬のようにうるうるとこちらを見る、水分がたっぷり含まれた瞳はドライアイ知らずだろうと的外れな事を考えながらサンジの頬を撫でる。その顔は少しだけボサついた髭も相俟って気の抜けるような顔をしている。
「朝ちゃんとキスで起こして、ベッドに置いて行かないで」
以上、と無理矢理話を終わらせた私はサンジから布団を奪い、ダンゴムシのように潜り込む。外から聞こえるサンジの甘い声を無視して寝たフリを決め込むのだった。