短編2
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頬杖をつき、期待したような目で私を見上げてくるサンジ。こういう顔をしている時のサンジは大抵、碌な事を考えていない。今までの経験から学んでいる私はサンジの視線から逃げるように立ち上がるとサンジに背中を向けてその場を離れようとする。だが、サンジの長い腕が私の腰に纏わり付き、キッチンからの脱出に失敗してしまった。
「暑苦しいから離れて」
今日は例年よりも暑いらしい、船上暮らしをしているとはいえ、なるべく快適に過ごしたい。この暑さの中をイチャイチャベタベタと恋人と纏わり付く趣味は残念ながら私には無い。
「なァ、ナマエちゃん」
「何よ?」
「ねっ、ちゅう、しよう」
「……それって自分から言うものだったかしら」
サンジのそれは熱中症という言葉をゆっくり口にするとキスの誘いになるという仕掛けだ。だが、それは自身から仕掛けるのではなく相手に言わせて楽しむというものでは無かっただろうか。サンジの性格を考えれば、私に言わせてニヤニヤと鼻の下を伸ばして、へェ、おれとそんなにチューしたかったんだ、と意地の悪い言葉で私の純情を弄ぶ姿の方が想像出来る。
なのに、今のサンジは私のシャツの裾を握ったままモジモジと落ち着き無く言葉を探している。
「え、えっとね」
おれからじゃないとおれがヤバイ、と急に言語が不自由になってしまったサンジに私は首を傾げる。
「……君に言われたら歯止めが効かなくなるから」
先程まで想像していたサンジとは正反対な反応をするから困る、女はこういうギャップに弱い事をサンジは知らないのだろうか。
「サンジ」
「ん?」
座っているサンジの目線に合うように顔を近付ける、そして垂れた目がぱちっと驚きに見開いた瞬間を狙ってその唇を奪う。
「ちゅう、しちゃった」
「……されちった」
唇を触るサンジはまるでキスの経験も無い生娘のような反応をする。普段は獣のように舌を入れて、唇がヒリつくようなキスをしてくる男にはまるで見えない。今年の夏はギャップを狙っているのか、と疑っている私の唇にちゅっと戯れるようなキスをしてくるサンジ。
「へへ、お返し」
この暑さに頭が茹だってしまったのだろうか、それとも今日はこういう気分なのだろうか。
「サンジが可愛く見える」
「あのね、ナマエちゃん」
私の方に椅子を寄せたサンジは私を膝に乗せて、秘密を打ち明けるかのように耳に顔を近付ける。
「可愛く見えたらもう抜け出せないんだって」
「……夏のせいよ」
サンジが可愛く見えるのは夏の暑さに頭をやられたからだ。きっと、秋が来ればまた憎たらしく思えるようになる。
「ずるい、おれは出会った時から君から抜け出せねェのに……」
肩に乗っかった重みを受け入れてる時点で察して欲しい、出会った時からこの熱に浮かされて、頭をやられているのは私も同じなのだ。だが、それを言葉にする素直さは私には無い。
「ねっ、ちゅう、しよう」
「……ご機嫌取り?」
「確かめて」
その強引な唇で暴いて欲しい、唇がヒリつくような獣のようなキスで私の本心に触れて欲しい。歯止めを効かせるブレーキなんて今は必要ない、と私は目を瞑り、サンジの唇が下りてくるのを待つのだった。