短編2
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「最初は伝えない気だったの」
白い天井を見つめながら、この空間に彩りを持ってきたサンジの背中に語り掛ける。サンジの手には愛らしい花が生けられた花瓶がある、中の花はきっとロビンが育てたものだろう。
「どうして?」
サンジは薄情な私を責めもせずに花瓶を窓際に置いて、花から私に視線を移した。そして、ベッド脇に置かれた椅子に腰掛ける。
「だって、手術なんて言ったらサンジの事だから動揺して何も手に付かなくなっちゃうんじゃないかって心配だったのよ」
「お気遣いありがとう、ナマエちゃん。でも、おれは君を信じてるから大丈夫」
私の右手を握ってサンジは私を安心させるように笑う。
「……あとは私が見られたくなかったの」
手術を嫌がっている姿を見せたくなかった、とわざと顔を顰める私。誰だって初めての経験は怖い、それが自身の体に起こる事なら尚更だ。サンジは握ったままの手の甲を指で撫でながら、口を開いた。
「君は隠すのが上手ェからなァ」
「前日になったら嫌だ、嫌だって暴れるかも」
「っ、くく、そしたら一緒に病室を抜け出そうか」
ここは4階だからおれが君を抱いてそこの窓からジャンプすればいけるよ、とサンジはとんでもない計画を話しながら悪戯な笑みを浮かべる。その姿はまるで悪ガキのようだ。
「ふふ、どこまで本気?」
「さぁね」
サンジはそう言って肩を竦めると笑みをしまい、ごめん、と謝罪を口にした。
「何を謝るの?」
「……おれは君とずっと一緒にいてェからさ、君が嫌だって泣いても、きっと此処でその背中を撫でながら涙を止める事しか出来ねェ」
「逃げてくれないの?」
サンジは人一倍、私に甘いが私を駄目にする甘さではない。簡単に大丈夫だとは言ってくれないし現実から逃げる私を手助けしてくれるわけでもない、それでも最後まで私と真剣に向き合ってくれるサンジが私は好きだった。
「君の未来が大事だから出来ねェ」
「……未来」
「おれとナマエちゃんの未来予想図はうんと長くなる予定だから君が付き合ってくれなくちゃ寂しい」
勝手にサンジの未来予想図に組み込まれて、勝手に重大なポジションに置かれている現実がおかしくてたまらない。
「本当勝手なんだから」
「嫌かい?」
「……嬉しいから嫌になっちゃう」
サンジの手を自身の口元に持っていき、ぎゅっとその手を抱えれば頭上から変な声が降ってくる。きっと、サンジの謎のツボに刺さったのだろう。
「は、エッ、かわいい」
「はいはい」
「エッ、し、手術って可愛さを抑える為とかじゃねェよな……?」
そうだったらどうするの、と肩を揺らす私はもう手術から逃げ出す気にはならなかった。手術をして目を開けたら、きっと真っ先にサンジが視界に飛び込んでくる。ナマエちゃんと湿った声を出して、碧眼を溶かして滝のような涙をこぼすサンジの未来が手に取るように分かって何故か安心した。