短編2
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を覚ました私は周りの散らかり具合に眉を顰める、泥棒にでも入られたのかと思ったがわざわざ寝室にメモ書きを散らす泥棒なんてこの世にはいない。ベッドの上にまで侵入しているメモ書きを手に取れば同居人である恋人の丸っこい字が並んでいる。
「サンジ」
犯人の名前を口に出して、番号が振られたメモ書きを最初から読んでいく。
1.おはよう、ナマエちゃん。目覚めはいかがかな?今日は君と簡単なゲームをしたくてね、筆を執ったよ。君はメモに従って宝を探すだけでいい。1から順番にメモ書き(おれのラブレター)を見て
メモの端には遠慮がちなサイズで「汚してゴメンナサイ」と書かれている、きっとメモ用紙を散らした後に不安になったのだろう。そういう所が憎めなくて嫌になる。最後まで勝手をしてくれたらいいのに、そう呟きながら私は次のメモに手を伸ばす。次のメモには短い愛の言葉と次のメモの置き場所が記されている、寝室に散らばったメモは本命を隠す為のダミーといった所だろう。だが、ダミーのメモとなめてはいけない。その一枚、一枚にサンジの見慣れた字が踊っている。愛してる、君の好きなところ百選、サンジの乙女じみたポエムに私とサンジの名が並んだ相合傘の落書き、部屋中に散らかるメモに紡がれたサンジの愛の言葉を一枚ずつ拾い集め、私は手の中にメモの束を作っていく。
「……まるで花束ね」
一昔前に流行ったラブソングが頭の中に流れる。大袈裟だけど受け取って、と力強く愛を歌う女性ボーカルをBGMに大袈裟な愛を振り撒くサンジの顔がチラつく。それが何だかむず痒くて私は手元のメモの束から視線を逸らす。
3.君はおれの愛を見つける天才だ、これは紛れもない真実さ。だって今、君はこのメモを読んでる。あ、それと寝室に散らかったダミーは見ても見なくてもいいよ、すげェ枚数になっちまったからさ。君が読まなくても一生を懸けておれが口にするから君は受け止める準備だけしてて。
最後に、次のメモはキッチンにあるよ。食器棚の2段目
キッチンの途中の廊下にもメモが転がっている、良く言えば手の込んだ、悪く言えば厭らしい程に作り込まれたそれはサンジそのものだ。なのに、筆圧や文字、言葉から伝わる情はただただ真っ直ぐでサンジの胸中から溢れ出した想いを1つ、また1つと私に優しく伝えてくる。言い逃げなんて許さないわよと声に少しの不満を滲ませて私は食器棚に手を伸ばす。食器棚を開ければ、色違いの皿の間にポツンと封筒が置いてある。至ってシンプルな真っ白な封筒、封を開けば中には便箋が2枚。サンジの丸っこい字が線の上にお行儀良く並び、便箋をギッシリと埋めている。そこには普段の口の上手いサンジは存在していなかった、芝居掛かった愛の言葉は無く不器用な愛が並んでいる。
私は起きてから一度も足を踏み入れていないリビングに飛び込み、やけに膨らんだカーテンを横に引き、かくれんぼが下手な恋人の名を呼ぶ。長い足は抱え込まれているせいか随分とコンパクトだ。
「サンジ」
「はぁい、良い朝だね。レディ」
「朝から宝探しをするなんて思っても見なかったわ」
「はは、おれの気まぐれに付き合ってくれてありがとう」
そう言ってサンジは足を崩して、私の手を自身の方に引っ張るとパジャマ姿の私をその腕に抱き締める。そして、頬にちゅっと子供同士の戯れのようなキスを一つ落とす。
「こっちは君に昨日伝えきれなかった愛の言葉、こっちは3日前。全ての愛を伝えているうちに君もおれも皺くちゃになっちまいそうだ」
サンジは私の手に握られたままのメモの束を指差すとそう口にする。
「君の皺くちゃになった手がおれの皺々な手を握る未来を楽しみにしてる」
「手紙の音読はマナー違反だよ」
「ふふ、ここがお気に入りって伝えたくて」
サンジの手紙を開いて一文をゆっくりとなぞる。そして、皺くちゃな手で色褪せた手紙やメモを読む日を想像する。カサついた指先は今日と同じようにサンジの愛を一文ずつなぞっていくのだろう。
「ねぇ、あなたが読んで」
その声で愛を綴って欲しくて手紙を片手に私はかくれんぼが下手な恋人を探す、カーテンの後ろ、キッチン、ベッドの中、家中に散らばった愛を拾い集めながら明日もその先の未来もサンジという宝を私は探すのだ。
1/200ページ