短編
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心配性も程々にしないと私に嫌われるわよ、そう言って私はサンジの手を振り解く。前にも後ろにも話が一向に進まないこの現状に嫌気が差して、つい声を荒げてしまう。嫌だ、駄目だ、行かせない、と私の腰に縋りつくように腕を回すサンジ。
「みっともない真似しないで」
「形振り構ってらんねェだろ……」
サンジの声はやけに静かで無理に冷静になろうとしているようだった。だが、隠した所で言葉の節々に怒りが滲み、とてもじゃないが冷静には見えなかった。
「頭を冷やしなさい」
「君こそ海にでも潜って頭を冷やすべきだ」
なら、今すぐ飛び込んでやるわよ、と手摺に手を掛けようとすれば、強い力で押し戻される。
「ったく、冗談も通じなくなったのかい?」
「こんな場面で冗談?何も面白くないわ」
今の現状を考えれば、嫌味の応酬なんてしているべきではない。直ちに敵のアジトに乗り込んで、情報を探し出す方が利口だ。なのに、味方のサンジはアジトに向かおうとする私を足止めしている。
「味方に邪魔されるとは思わなかったわ」
「……んで、っ」
腰に巻き付けられたサンジの腕に力が入る。サンジは力加減を間違えたのか、ミシっと音が出ても不思議じゃないくらいに腕に力を込めた。
「離して、痛いわ」
「離したら君はあの野郎の所に行くんだろ」
「誰かが足止めしなくちゃいけないって話になったでしょ」
今回の敵はどうやら女性に弱いらしい、誰かさんと一緒じゃない、と内心で舌をベーッと出してタラタラ文句を募らせていく私。
「……君である必要は?」
「サンジはあの二人を身代わりにしろ、って?」
随分とナメられたものね、と吐き捨てれば、肩をグイっと引っ張られて強制的に体をサンジの方に向けられる。普段の甘ったるい優しさがそろそろ恋しいくらいだ、今日のサンジは目を吊り上げてありったけの怒りを向けてくるから調子が狂うのだ。今なら二重人格と言われても信じてしまいそうになる。
「そういう事じゃねェ!好きな女がクソ野郎の元に行くって知ってて送り出すような男が何処にいんだよ!そんな危険な事、おれが許すと思ってんのか!?」
呆気に取られる私のシャツはサンジに握られたせいで皺が寄っている。
「……なぁ、ナマエちゃん。行かねェで」
サンジの声帯から悲痛な音がして、切ない本音をこぼしていく。何度も、何度も、お願いだから此処にいてとサンジは繰り返す。
「私から危機感を奪ったのはサンジよ」
「……どういう意味だい」
「心配性で過保護な貴方が迎えに来てくれるって知ってしまったから、無茶だって怖くないのよ」
顔を上げたサンジの垂れた目元には涙の粒が浮いている、まったく海賊らしくない幼い泣き顔に自身の怒りが沈んでいくのが分かる。
「危ない目に合う前に迎えに来て、ダーリン」
待ち合わせしましょ、とデートの待ち合わせを決めるようなテンションでサンジの冷えた両手を握りながら、そう提案する。
「参ったなァ」
特徴的な眉を目一杯、ハの字にしたサンジは私の両手を自身の口元に持っていくと手の甲にキスをする。
「仰せのままに、ハニー。クソ野郎が君に触れる前に君のサンジが伺います」
「ふふ、遅刻しないでね」
「……あー、もう、おれの事ポケットに入れて連れて行ってくれねェかな」
サンジのジャケットのポケットからジッポを取り出して、綺麗な装飾がされてある金色に口付けた。
「この子を連れて行っても?」
「……っ、はは、最高なレディだ」
おれの代わりに可愛がってくれよ、とサンジは私の手を引き寄せて、耳元でそう囁くのだった。