短編
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2LDKの真っ白な城には業者が運んだ家具と家電、そしてダンボールが山積みになっている。そのダンボールの殆どは私の私物だ、特段荷物が多いわけではないが目の前のサンジの手持ちの荷物を見てみれば量の違いは一目瞭然だ。前々から合間を縫って少しずつ荷物を新居に運んでいた私とは違ってサンジは今日初めて荷物を持ってきた。これまでにも何回か私はサンジに確認を取っていた、荷物は大丈夫か、レストランが忙しいなら代わりに運んでおくよ、と。
「親切な君も素敵だなァ」
サンジの目が完全にハートになってしまう前に私はもう一度、大丈夫かと尋ねる。そうすれば、サンジは毎度決まってこう言った。
「荷物は少ねェ方なんだ、だから運び出すのは引っ越し当日で問題ねェよ」
確かにそう言っていたが些か少な過ぎではないだろうか、二つのダンボールだけで形成されたサンジの私物に私は失礼ながら口を出す。
「正気?」
本人は気にしていないのかおかしそうに笑って、正気だよ、とダンボールの蓋を開けている。
「何も持ってねェ方が大切な物が引き立つのさ」
良い事を言っているのは分かるが、サンジの大切な物が私には何か分からない。あのダンボールの中にあるのだろうか、いつか、ふらりと何処かに行ってしまいそうなサンジの身軽さが少しだけ怖かった。
断捨離が下手な私は自身の荷物の多さに呆れながら荷解きに取り掛かる、自室になる予定の一室の床に座り込みダンボールを開封していく。そこにドアをコンコンとノックして、サンジがダンボールを持ってやって来る。
「これはこっちでいい?君の服みたいなんだけど」
「ありがとう、助かる」
「いーえ、君のお役に立てて幸せだよ」
私の荷物ばっかり運ばせてごめんね、と謝罪する私と同じようにサンジは床に座り込む。その姿はいつものピシッとキマったオーダーメイドスーツではなく、よれたTシャーツとジャージの組み合わせだ。生活感に溢れたその姿を毎日見れるのかと思うと胸の奥がなぜか熱くなった。
「おれの大切なものには大切なものが沢山あるみてェだ。はは、城の中が君に染まっていくのは悪くねェよ」
「……サンジの大切なものって」
「ナマエちゃんだけど?」
そんな当たり前だろ、みたいな顔をするのはやめてほしい。私にとっては当たり前でも当然でもないのだ、サンジの規格外の愛にはまだ慣れそうにない。
「愛されてる自覚が足りねェんじゃねェの、レディ」
固まってしまった私の体を抱き上げると自身の膝に座らせるサンジ、そして秘密を打ち明けるようにぽつぽつと話し出す。
「リビングのソファ」
サンジが譲らなかったリビングのソファは少しだけ窮屈だ。サンジの高身長では寝そべったら足は余裕ではみ出してしまうし、二人で座るには体が密着してしまう。買う際にもっと大きいのでも、と言ったがサンジはこれがいいと譲らなかった。
「まさか」
「はは、計画犯」
ちなみにベッドも、とピースサインを作るサンジの頭をバシッと叩く。
「愛が痛ェよォ……ナマエちゃん……」
「どうせ、くっつきたかったからとか言うんでしょ!」
「あれ、愛されてる自覚あんじゃん」
サンジの種明かしに私はむず痒いような、恥ずかしいような気持ちになる。わざわざそれだけの為に、と言えないのは自身もどこかではそう思っていたからだろう。
「朝起きたら床でも知らないから」
「君が暴れないように抱えて眠るよ」
「……はぁ、他に隠してる事は?」
サンジは器用に片方の口角を上げると、大切なものを離す気はないよ、と言う。口にした覚えなんてない、自身の中に巣食った不安はどうやらサンジにバレているようだ。不安を取り除くように奪われた唇はまだ離して貰えそうにない。