短編
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ピンと張られた緊張の糸を、更に引き絞って、決して悟られないように神経を張り巡らせて、普段通りに過ごすのは簡単な事だった。自身の不調よりもサンジに要らない心配を掛けさせる方が彼女にとっては辛いものだった筈なのに、サンジの温かい手が張り詰めた糸を優しく緩めてしまったから、この体は自身のものではないみたいに崩れ落ちてしまった。
「……っ」
不調を訴える体は絡まった糸のようだ、こんがらがった思考を遮るように激しく頭に電流のような痛みが走り、もうワケが分からない。大丈夫だよ、とサンジをこの場から追い出すにはもう手遅れだろう。その証拠にサンジは倒れそうになった彼女の体を片手で支えてくれている。治まったら自分で歩けるから捨てておいていいわよ、そう口にした彼女にサンジは傷付いた顔をした。何でそんな顔をするのだろう、まともな思考が戻って来ていない頭では、その理由すら考えられない。
「ナマエちゃんは馬鹿だ」
ほんと、ばか、普段よりも幼い口調で彼女に文句を言うサンジの声は少しだけ湿っている。体調の悪い彼女に悟られないようにしているが、目の前で恋人が倒れて冷静でいられる男では無かった。
「恋人が目の前で倒れて、挙げ句の果てには捨てておけ?馬鹿言うんじゃねェ」
サンジは彼女を姫抱きにすると、ソファに優しく寝かせる。体温の低いその体にブランケットを掛けて彷徨う彼女の右手をぎゅっと握った。
「頭以外にどこが辛い?我慢したり秘密にしたりしたら、おれだって怒るからね」
もう怒ってるじゃない、そんな小言を飲み込んで彼女は首を横に振る。問題ないわ、と。
「……それに、このぐらい大丈夫な筈なのよ」
「はぁ、大丈夫じゃねェって言ってんだろ」
「本当に大丈夫な筈なの。前だったら、こんな失態を起こさなかったわ」
眉を下げ、普段よりも弱々しい否定を繰り返す彼女は叱られた子供が一生懸命に弁明しているようだった。サンジは子供をあやすような手つきで彼女の頭を撫でる。
「君の体は休みてェって」
「分かるの……?」
「人間の体はさ、上手いこと出来てんだよ。頭が痛ェ、腹が痛ェって君よりちゃんとお利口に言葉にしてくれんの」
今日のサンジは意地悪だ、と赤い顔で口を尖らす彼女はサンジが厳しくしなければ今以上に無理を繰り返すだろう。今日だって朝から様子がおかしいのに島に下りる気でいたのだ、勿論、サンジはストップを掛けたが彼女はその止められた理由を理解していなかった。
「飴と鞭ってやつだよ、レディ」
「……久しぶりのデートだったのに」
「確かにね。ま、タイミングなんてこんなもんだろ」
それに少しぐらい無理したって、そう言ってまた糸をキリキリと引き絞って無理をしようとする彼女の額にサンジは自身の額を優しく当てて、こう言った。
「体調崩したってさ、こうやって一緒にいれるじゃん」
サンジは彼女の唇に触れるだけの口づけを落とす。
「キスだって出来ちゃうわけだし?」
何の問題もねェの、とわざと明るい声を出すサンジ。彼女が気に病まないように今この状況だって悪い事ばかりではないと行動で示そうとしている。
「……糸が解けちゃったのかも」
握られた手、口に触れた熱、そのぬくもりから彼女は自身の変化に気付く。
「私はサンジの傍が安心するみたい」
そんな当たり前にたった今、気付いてしまった。