短編
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「おうじさまなの?」
幼い少女の質問にサンジは視線を合わせるようにしゃがみこむと口の前でシーッと人差し指を立てた。そして、内緒話をするようにお伽噺のような優しい嘘をつく。
「城を抜け出してきたんだ、だから、君もおれが王子様ってこと内緒にしてて?」
サンジは小指を差し出して、約束、と甘い声を出した。少女は自身の可愛らしい小さな小指をサンジの指に絡ませて、頬を薔薇色に染めた。
「初恋泥棒ね」
嘘つきの元王子様、そう言って目の前で繰り広げられている天国のような光景に目を細めた。
戻って来たサンジの手には花冠が握られている、シロツメクサが綺麗に編まれていて作り手の手先の器用さが表れている。
「はい、ナマエちゃん」
「私がお姫様ってバレちゃうわよ、王子様」
「はは、さっきの聞かれちまってた?」
サンジの手から花冠を受け取る、私はその輪っかを頭の上に乗せるとサンジを見上げてこう口にした。
「逢い引きにしては下手だったわね、花冠は上手だけど」
「人には得意不得意があるからね、おれはレディとの交流を隠す気はねェの」
「流石、王子様」
女神みてェな君に褒められて光栄だ、とサンジは私の手を自身の口元に持っていくと王子様のようなキスをする。お伽噺の王子様にときめくような年齢は疾うに過ぎたのにサンジからのキスは私の渇いた心を跳ねさせるから不思議だ。
「あの子には刺激が強いかしら?」
「王子様とお姫様のキスはハッピーエンドの基本だろ」
ほら、とサンジが指差した先には目をキラキラさせた少女が立っていた。
頭にお揃いの花冠が見えて、つい微笑んでしまう。きっと、サンジが少女に作ってあげたのだろう。横のサンジに視線を向ければ、命を愛おしむような顔をして少女を見つめていた。
「可愛い?」
「うん、子供ってすげェよな」
「パパの顔だ」
「気が早ェかな?」
ここにいるお姫様に早ェって言われちまうかな、とサンジは私のお腹に優しく触れる。
「きっと、この子もサンジに早く会いたいよ」
先日、チョッパーに赤ちゃんの性別は女の子だと言われた。その前からサンジはレディに対する異常なセンサーで女の子に違いねェと言い張っていたが、きっとサンジなら機械に頼らなくても女の子だと直感で分かるのだろう。
以前、サンジと子供について話し合った事がある。その時も今日みたいにサンジは島の少女に懐かれて、島を出る時にはこちらが戸惑ってしまうくらいに少女は寂しいと泣いていた。レディが泣いたらおれも悲しい、そう言ってサンジはあの手この手で少女を笑顔にしようとしていたのを覚えている。
「サンジ、子供は何人欲しい?」
その光景に刺激されたのか、つい、私はそう口にしていた。君との愛の結晶ならいくらでも、と目をハートにして騒がしい答えが返ってくると思っていた。だが、予想とは違ってサンジは何も口にしなかった。私は一瞬、まずったかも、と顔色を悪くしてサンジを見上げた。
「おれさ、何人がいいって言えねェわ」
「言えない……?」
「多けりゃ多いだけ、って言うのは簡単だけどさ。腹ん中でガキを守れんのはレディしか出来ねェんだよ、そこを理解してたら何人でもなんて軽はずみなセリフ吐けねェだろ」
代わってやれねェのに、とサンジは言った。その時、私は明確にこの人との将来を意識した。サンジと一緒に生きていきたい、と。
「君の腹で守られてるこの子は幸せだろうな」
「この子が出て来たら、入ってもいいわよ」
なら、お邪魔させてもらうよ、とサンジは冗談に乗っかってくすくすと肩を揺らしている。この子が生まれたらきっとバタバタと慣れない育児にサニー中が大騒ぎになる、お互いに頭を悩まして、お互いに壁にぶつかって、お互いに成長していくのだ。それまではパパとママではなく、王子様とお姫様でいようと思う。そして、子供に教えてあげるのだ、二人のお伽噺を。