短編
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「エンジェルナマエちゃんメロリン号はきっとロケットなんかよりも早ェ」
サンジはそう言って、友人であるウソップの前でドヤ顔を披露し胸を張る。ただのママチャリだろ、とつれない事を口にするウソップの長く伸びた鼻を鷲掴みにしてサンジは舌打ちをこぼす。
「面白みのねェ長っ鼻だ」
「ったくよォ、輩かよ」
赤くなった鼻を擦りながら、え、これ、折れてねェよな、と真逆の顔色をするウソップの焦った声を右から左に流して、サンジは自転車をのんびりと押す。
エンジェルナマエちゃんメロリン号はサンジと彼女しか乗れない馬車であり魔法の絨毯だ、彼女が行きたい所なら何処へでもおれとコイツで連れてってやる、とサンジは本気で思っていた。
「ごめんなさい、もう行くわ」
最大級の愛を込めた挨拶を返そうと見上げた先には二階の窓から身を乗り出して申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる彼女がいた。まるで塔に幽閉された姫のようだ、と思いながらもサンジは慌てて窓の下まで移動する。
「ナマエちゃん……!?そんなに窓から身を乗り出しちゃ天使の君でも怪我しちまうから!中!中、入って!」
窓の下で両腕を前に差し出して、あわあわと一人慌てるサンジ。そんなサンジの姿が滑稽なのか彼女はくすくすと肩を揺らしながら笑っている。笑ってねェで中に入って、とご近所迷惑一歩手前の大声とジェスチャーで伝えれば彼女はやっと家の中に入る。
「……君にドキドキさせられるなら別の方法がいいな」
これじゃ、心臓が何個あっても足りねェとサンジは苦笑いを浮かべながら止めていた自転車に跨って彼女が下りてくるのを待つ。
玄関の扉が開く音がして、サンジはそちらに視線を向ける。目が潰れちまいそうな程に眩しいナマエちゃんがおれに手を振っている、と毎日の幸せを噛み締めるサンジ。
「ナマエちゃん走ったら危ねェよ」
駆けて来る彼女に慌てて立ち上がると飛び込むようにこちらに向かってくる彼女を優しく受け止める、これだけでサンジの朝は最高のものになるのだ。時間に追われて見ていない朝の情報番組の運勢は知らないがサンジにとって彼女と抱き合える毎日は間違いなく一位だと言える。
「サンジくん、おはよう」
今日もかっこいいわね、とサンジを見上げて微笑む彼女。サンジは緩んだ表情筋を引き締める事も出来ずに彼女を見つめる。
「……朝の時点でこんなに幸せならおれは帰り生きていられるのか」
「ふふ、なにそれ」
変なサンジくん、そう言って彼女は笑いながら自身のリュックサックの中から可愛らしい包みを取り出す。
「はい、今日のお弁当でーす」
「ナマエちゃんの弁当……ッ……」
「毎日交換してるのに大袈裟なんだから」
大袈裟なもんか、と彼女から渡された弁当を両手に持って天に掲げるサンジ。
「天使からの贈り物を貰っちまった」
そう言って泣きそうになるサンジを見ながら彼女はまた優しく微笑んだ。そして、サンジのブレザーの袖をクイッと引っ張った。
「今日の卵焼きはね、ちょっと特別なの」
「特別?」
「ハート型よ、サンジくんに教えてもらったから綺麗に出来たの」
「か、かわいい〜〜!!ハート!?勿体無くて食えねェかも、でも、それは作ってくれた君に失礼だ……っ、おれはどうしたら……うぅ、一口、一口噛み締めて君の愛をいただくよ、レディ」
サンジのスマートフォンのフォルダは彼女の卵焼き一色になる運命だ、だが、それを伝えたら気色悪いと言われてしまうかもしれないとサンジは口に出さずにそれを飲み込んだ。
「おれの弁当はガッコーに着いたら渡すね」
彼女はサンジの言葉に頷くと、恥ずかしそうに自身のお腹を撫でる。
「……朝ご飯ちゃんと食べたのにサンジくんのお弁当のこと考えたらお腹空いちゃう」
サンジは彼女の弁当をぎゅっと抱き締めたまま、恋する乙女のような顔をする。
「一生、君に料理を作りたい」
何を褒められるよりも料理について言われる事が一番嬉しい、自身の一番深い場所に触れてくれているようで胸が一杯になるのだ。無意識に口から出た言葉には嘘はない、明日も明後日も自身の料理で彼女を満たしたいとサンジは思っている。彼女はサンジの言葉に幸せそうに微笑み、素敵ね、とサンジの腰に抱き着いた。
出発進行、と背後で立ち上がろうとする彼女の手を自身の腰に誘導してサンジは自転車を走らせる。ロケットよりも早い二人専用の自転車でサンジは彼女を未来まで運びたい、自身の隣で自身の料理を味わう幸せな未来まで毎日、毎日ペダルを漕ぎ続ける。
「いい子で掴まっててね、ナマエちゃん」
二つの弁当箱に入った揃いのハートに驚くであろう彼女を乗せて、一番近い未来までサンジはペダルを漕いだ。