短編
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夢の中に登場させるなら出演料がいるわね、そう言ってサンジの寝顔を指で突く。サンジは寝ながらも私への愛を垂れ流しにする、起きているのかと勘違いしてしまうくらいにハッキリとした口調で私の名を呼び、私への愛を事細かに口に出す。それに小さく返事を返しながら、早起きのサンジの睡眠を邪魔しないように観察する。サンジの寝言を盗み聞きしているようで少しだけ罪悪感が湧くが、その邪気のない柔らかな言葉を子守唄にして眠りにつくのはとても幸せなのだ。サンジの程良い硬さの腕枕と甘い寝言のセットは私の安眠には欠かせない。
「いい夢を」
サンジの幼い寝顔にそう声を掛けて、私は触れるだけのキスをサンジの頬に落とす。
フランキーやナミからのご厚意でサニーには私達二人の寝室がある、二人で過ごすには十分な大きさのベッドにはリネンのシーツが掛けられて清潔感がある。お互いの綺麗好きが相まって常に綺麗にベッドメイキングされているそこは二人の城だ。そんな場所で二人並んで寝る事にも慣れてきた頃、寝惚け眼を擦るサンジに私はこう言った。夜のあなたは随分とお喋りね、と。そこだけ聞いたら色っぽい会話にも聞こえるが現実はサンジの無意識の寝言が原因だ。サンジは数回、瞬きを繰り返すと身に覚えがないと首を傾げたり、寝惚けて襲っちまった!?と想像力豊かな勘違いを繰り広げたり、寝起きとは思えない騒がしさで私に詰め寄った。
「おれ、何かしちまった……?」
「寝言」
「エッ、寝言?」
寝息混じりの告白をどうも、そう言って悪戯に笑えば、整った顔が途端に愉快な百面相を披露する。
「ま、待って、おれ、何言った!?」
「なぁんにも?」
「ぜってェ、余計なこと言ってたろ」
最悪、そう言ってサンジは私の肩に頭を預けて項垂れる。よしよし、とあやすようにピョコピョコした寝癖頭をゆるりと撫でながら、機嫌良く私は鼻歌をこぼす。
「何でナマエちゃんはそんなに楽しそうなの?」
「すき、だいすき、あいしてる、ってサンジが言うから」
数日後、サンジはトーンダイアルを寝室に持って来た。これで自身の寝言を録るらしい、後から自身の寝言を聴くなんて地獄ではないのだろうか、と思いながらもあの熱烈なラブコールのような寝言が形として残るならそれはそれで有りだ。
「……ナマエちゃんが盛ってるとは思わねェけどさ、男部屋で寝てた時はおれが一番静かに寝てたぜ?あんのクソ野郎共のうっせェ寝言といびきの中でよくやってたと思うよ、おれ」
「トーンダイアルがきっと証明してくれるわ」
サンジが寝たらボタンを押すわね、そう言って私はサンジの前髪を指で退かすと露わになった額に口付ける。
「いい夢を」
「それなら君にご出演願おうか」
「出演料取るわよ」
手厳しいね、と私の頬に口付けたサンジはそのまま、おやすみの挨拶を交わすと重くなった瞼をゆっくりと下ろす。
それから数時間後、自身の身体を締め付けるサンジの腕の強さに目が覚めた。長い腕がぐるぐると身体に巻き付いて暑いぐらいだ。そこから手慣れたように抜け出そうとすれば、その腕にぎゅっと力が込められ、脱出を阻止される。
「……ズリィって」
「何が」
私の背中に頭を埋めながら、サンジは昨夜録音したトーンダイアルを聴いている。そこからはサンジ自身の蕩けそうな声がちょこちょことしっかり入っている。それに返事を返す私の律儀な声も録音されていて、サンジはそのダメージにやられている。
『すき』
『寝顔に好きって言う趣味は無いわ』
つれない返事がトーンダイアルから聴こえてくる、だが、その後に続いたリップ音がサンジの鼓膜を刺激する。
「……これ、キスした?」
「約束よ」
約束って何だい、そうサンジが尋ねる前に私はサンジの両頬を自身の両手で挟む。
「私も好き」
起きたら私も言うって約束したから、そう言って私はトーンダイアルを指差してにっこりと笑ってみせる。その後にトーンダイアルから響いた声が答え合わせをしてくれた。
『起きてる時に聞いてくれなきゃ嫌よ?』
「……君だってお喋りじゃない?」
サンジは赤くなってしまった耳朶を触りながら落ち着き無く私に視線を向けて、こう口にした。
「おれからの愛もどうかな、レディ」
おれにも起きている時に言わせてよ、そう言ってトーンダイアルに録音された無意識で熱烈なラブコールをなぞるようにサンジは心を込めて、私に愛を語るのだった。