短編
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宣言と同時に押し返されたサンジの愛の一部は手を付けられないままテーブルの上に待機を命じられている。不摂生な彼女が心配で通い妻のように数個のタッパーに手料理を詰め、毎朝、通勤前に彼女の家に通うのがルーティンになっているサンジ。今日だって彼女の胃袋を満足させる料理を普段通りに持って来た筈なのに彼女は紙袋の中のタッパーに一度だけ視線を向けて、サンジにそのまま返した。
「休日だし外食の予定でもあった?」
「太ったから貰えない」
「どこが?」
自身の頬を摘む彼女は気まずげにサンジの質問に答える。
「顔とか」
頬の柔らかさに絶望しながら彼女は自身の頬をむにむにと触る、先週よりも弾力が増しているような気がして顔を顰める彼女。一つの欠点に気付くと別の欠点が顔を出していく、顔以外にも腹や腕、以前よりも肉付きが良くなっている気配がするのだ。
「まあるいの可愛いよ」
「ま、まるいって……!」
うわーん、と騒がしく泣き真似をする彼女の頬に手を添えてサンジは愛おしそうに目を細める。男である自身とは違う柔肌は傷一つなく、つつけば指がふにっと沈む。この肌に触れる度にサンジは安心するのだ、理由は分からないがホッとしてしまうような安心感がある。
「元々が折れちまいそうな細さだったからさ、嬉しいんだよなァ」
「……嬉しいの?」
「あァ、おれが育てましたって感じしねェ?」
サンジの言葉のせいで彼女の頭の中では養豚場の豚と飼育員サンジの図が完璧に出来上がった。出荷されるまでの間、大事に大事に育てられる豚と一緒だ。
「ダイエットするって言うなら止めねェし……サポートだってしてやりてェけど、君が世界から1グラムでも減るのが悲しくてやるせねェ……っ、うっ、やっぱり、もっと増やして、おれの世界を君でいっぱいにしてくれねェかなァ……ナマエちゅわん」
「……サンジの為に可愛くいたいの」
彼女はサンジのシャツの袖をぎゅっと掴んで、唇を尖らす。自身の為に己を磨こうとしている彼女にサンジの心臓はギュンと派手な音を立てて激しいビートを刻み出した。
「エッ、理由がおれ……?ああああ、おれのだよな?この子、え、本当に可愛い。君のそういうクソ可愛いところにおれはメロメロなんだよ。一生、おれの飯だけ食って欲しいなァ♡」
可愛い、可愛いと何度も口にしてくれるサンジに彼女の固い意思はどんどん溶かされていく。
「……太っても抱っこしてくれる?」
「安心して柔らかくなっていいからね♡」
サンジはそう言って彼女の身体を抱き寄せて自身の膝の上に乗せる、彼女はサンジが持って来てくれた紙袋の中を覗きながらサンジのされるがままになっている。
「サンジのご飯、はんぶんこしよ」
彼女は人からの好意に弱い。今だってせっかく作って来てくれたのに食べないのは申し訳ない、とでも思ったのだろう。
「おれも食っていいの?」
「カロリーは全部、サンジがもらって」
「……おれ、体質的に太れねェんだよね」
彼女は丸い頬を更にまんまるにしてサンジを睨みつける、そして、サンジの肉の少ない薄い頬を摘む。
「っ、はは、いてェ」
「知らない」
心はパンパンに膨れて、幸せ太りを続けていると言ったら彼女はどんな顔をするのだろうか。見た目に出ない事にまた顔をフグのように膨らますのだろうか、それとも、私も、と笑ってくれるのだろうか。パンパンに中身が詰まった心を抱いて、サンジはまあるい幸せに触れた。