短編
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ボール詰めのモンスターを引き連れて、某地方を歩き回って旅をする私の背中には寂しがり屋のモンスターが張り付いている。液晶画面から目を離さない私の肩に顎を置いてグリグリ、頭を置いてグリグリ。無言の圧を出しながら、モンスター改め恋人のサンジは私の冒険を嫌々ながら見守ってくれている。
「……ナマエちゃん」
「あと五分」
「もうニ時間経ちました!」
あと五分を延長し続ける私に限界が来たのかサンジは見守るのを辞めて反撃に出る。
私の手からゲーム機を奪うと自身の背中に隠すサンジ、ベーッと舌を出してこちらを拗ねたような顔で見つめてくる。趣味に理解があるサンジにしては珍しい行動だ。前シリーズの時はこんなではなかった、何時間やっていようとサンジは隣でニコニコとそんな私を見守っていた筈だ。
「……そっちのサンジに夢中なのやだ」
私の太腿に乗ったアヒルのような水色のカモのぬいぐるみを一睨みしてサンジはそう言った。
「サンジくんにヤキモチ?」
「……同じ名前なのも認めてねェ」
太腿に乗ったサンジくんの尖ったアヒルのような口は目の前にいるサンジの尖った唇とソックリだ。頭の綺麗なブルーはサンジの仕立てのいいシャツと同じ色で可愛らしい、ちょこちょこと私の後ろを着いてくる所も似ている。そんな些細な特徴を数えていったら、このカモに愛着が湧くのも仕方ない事だろう。
「だって、サンジみたいで可愛いじゃん」
ぬいぐるみをサンジの顔の前に差し出して、サンジの尖った唇に押し付ける。サンジは片手でぬいぐるみを退かすとぬいぐるみの代わりに私の唇に触れた。
「おれはこっちがいいな」
「なっ、もう」
「君はサンジとサンジくんどっちがいい?」
ぬいぐるみと自身の頬をくっつけて可愛らしく首を傾げるサンジ。
「別ベクトルでしょ」
「うっ、氷のようにクールな君も美しいが……っ、そういう事が聞きてェわけじゃねェんだ」
「面倒くさい」
氷柱のように尖った私の一言に撃沈するサンジ、こういう面倒臭さも何だかんだ愛らしく思えるから恋というものは不思議だ。
ソファに崩れ落ちているサンジの後ろからゲーム機を救出してセーブボタンを押す。チラチラと煩い視線に苦笑いを浮かべて、ゲーム機とぬいぐるみをテーブルの上に置くと私は自由になった両手をサンジに向けて広げる。
「ナマエちゃん?」
「やせいのナマエちゃんがとびだしてきた!」
だから、捕まえてよ、サンジ、そう言って、待ての出来ない私は自分からサンジの首に抱き着いた。
「……ナマエちゃんゲットだぜ?」
「ふふ、疑問形?」
「おれ、あんまり知らねェもん」
君の可愛さは誰よりも知っているけどね、と誰に対してか分からないマウントを取りながらサンジは自身の腕の中に私を閉じ込めた。
「ボールにいるモンスターの気持ち」
「はは、どんな感じ?」
「悪くないよ」
「なら、良かった」
寂しがり屋のモンスターでありながら、面倒臭いトレーナーでもあるサンジにポケットサイズになんて収まらない身体をぎゅーっと押し付けて、ある技を口にする。
「ナマエちゃんのメロメロ攻撃」
「グッ……相手のサンジはメロメロで技が出せなかった」
胸を押さえて大ダメージを受けてくれるサンジに私はつい笑みがこぼれる、あまりゲームを知らないと言いながらも返ってくる台詞はやけに完璧だ。
「私の為に知ろうとしてくれるの嬉しいよ。ゲームに限らず、何でも」
「君の攻略本は売ってねェから自分で調べるしかねェの」
とっくにサンジに攻略されているのに、これ以上、何を知る気だろうか。サンジのワインレッドのスーツで致命傷を食らう事?それとも、サンジの眉毛の真似をしてアイブロウペンシルで眉の端を描き足した事?後者は恥ずかしくて、サンジが帰ってくる前に綺麗に落とした記憶がある。
「何を知りたい?」
「んー、君のまるごと全部かなァ」
欲張りなサンジの一言に特に驚きもしないのは私も似たような事をサンジに思っているからだろうか。私を半分にして私の中に詰まりに詰まったサンジへの感情を見せたくなる。頭の先から爪先までたっぷり詰まった愛を吐露したら目の前の男はぬいぐるみにつまらない嫉妬を起こしたりしなくなるのだろうか。
「……それは嫌かな」
「へ、ここはサンジ格好いいキュンってなる所じゃねェの……?」
「どうだろ」
私の一字一句に百面相をこぼして、あたふたと全身で愛を謳うサンジ。そりゃねェって、ナマエちゃんと萎れたタンポポ頭が可愛くて私はまた知らないフリを続けるのだ。