短編
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蛇口の制御が出来なくなった涙腺から涙が溢れて、シーツに染みを作っていく。折角のデートを台無しにした不甲斐なさとサンジに対する申し訳なさで気分は最悪だ、熱があるんだから当たり前だろう、と目を吊り上げるチョッパーから目を逸らし、毛布に包まる。サンジには一応の謝罪をしたが、残念そうな表情を見たら今以上に後悔するのが分かっている為、殆ど顔を見ずにチョッパーの所まで逃げて来た。
グズグズとおさまらない涙を垂れ流しにしながら、チョッパーがいなくなった静かなこの部屋で後悔を募らせる。昨日、サンジが言う通りにあったかくしていれば良かった、早めに女部屋に戻れば良かった、とタラレバを繰り返していれば、コンコンとノックの音が響く。
「開けるよ」
サンジの声に私は肩をピクリと動かして、急いで毛布の中に戻る。ただでさえ、熱があるというのに毛布の中では中からも外からも熱を感じて、少しだけ息苦しい。サンジはベッドに腰掛けると、ナマエちゃん、と優しく私を呼ぶ。何度、呼ばれたって涙で枯れてしまった声を出す勇気はない、それに心配を掛けるだけだ。
毛布の外の状況を知る手立ては音だけだ、外からはベッドが軋む音と私を呼ぶサンジの声。そして、毛布ごと私を包み込む長い腕。私が辛くならないように力加減はいつもよりも控えめで、体重を掛けられるように体勢も気を使ってくれている。
「ナマエちゃんのお顔が見てェなァ」
ちょっとだけでもいいから見せてくれねェかな、と甘やかすような声色でサンジはだんまりを決め込む私に声を掛け続ける。
「お留守か?でも、愛しい気配がここからするんだよなァ」
サンジの悪戯な手が毛布を少しだけ捲る、私は隙間から覗く金髪にそろりと手を伸ばした。そうすれば、こちらを覗き込むタレ目がふにゃりとまた柔らかく垂れる。
「ナマエちゃん、見っけ」
「……泣いたから、見ないで」
「やぁ、泣き虫さん」
サンジは私の顔に影を作る毛布をベールのように剥がすと、くすっと笑みをこぼして、かわいー顔、と赤く腫れてしまっているであろう目尻にキスを落とした。じん、と滲みたキスにまた涙腺が緩みそうになって、私はサンジのシャツに顔を埋めた。ブルーのシャツに涙が染みて、色が濃くなっていくのを他人事のように眺めていれば、サンジの大きな手が私の頭をくしゃりと撫でた。
「デートさ、楽しみにしててくれた?」
「……当たり前でしょ」
「おれも楽しみだったよ」
もう一度、サンジに謝ろうと顔を上げれば、頭を撫でてくれていた大きな手が私の口にストップを掛ける。
「謝らねェで」
「でも……」
「おれのレディは自分自身に厳しすぎるんだよなァ」
そんなに意地悪しちゃ可哀想だ、と器用に片目を閉じるサンジに私はつい黙り込んでしまう。だって、サンジといると自分自身を甘やかす暇なんてないからだ。
「……サンジのせい」
「エッ、おれ?」
「サンジが私を甘やかすから」
甘やかしたくなる君が罪作りなんだ、と責任転嫁をしてくるサンジに私はくすりと笑みをこぼす。
「ふふ、治ったら沢山甘やかしてくれる?」
「仰せのままに」
「ありがとう、サンジ」
サンジは私をベッドに寝かせると額に口づけを落とし、唇には口づけの代わりに右手を狐のようにして、ちゅ、っと触れたのだった。
「おれの右手が食っちまった」
「ふふ、なにそれ」
愛おしい時間に身を委ねていれば、段々と瞼が重くなる。とろんとした瞳に蓋をするようにサンジの手が影を作る、夢の中で会おうね、と笑うサンジの声に背を押されるように私は眠りの海に沈むのだった。