短編
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サンジの思わせぶりな態度に何度目かの溜息をついた、手元にはサンジがくれた花が一輪、花弁を失ったままの状態で私の手に握られている。好き、嫌い、好きと子供騙しの花占いを繰り返す。何度、花を丸裸にしたって結果は嫌いの一択だ。海に散っていく花弁にさえ、私の恋は無謀だと笑われているようだ。
「……無謀でも、好きになっちゃったんだから許してよ」
目の前をひらりと舞う黄色の花弁に口付けて、私は海に茎だけになってしまった花を投げ入れた。
思い切って買ったヒールはサンジとの身長差を埋める為だ、鏡前で脚を小鹿のようにぷるぷる震えさせている私は素敵なレディとは程遠い。だが、それ以外はどうだろうか。いつものユニセックスなデザインの楽な上下では無く、淡い色合いのニットワンピースに身を包み、指先にはちゅるんとしたピンクが載せられている。髪だってナミにオススメされたトリートメントを使い出してから厄介な癖毛がおさまり、背中でストンと大人しくしている。
「これならレディに見えるかな……」
サンジからレディ扱いを受けていないわけではない、ただ、ナミやロビンとは違って妹のように思っているのだろう。垢抜けない童顔に幼児体型、二人のように外見を武器にするなんて夢のまた夢のような私にサンジがその気になる事はない。
サンジに見合う人になりたいと密かに行動を続けていた私、ヒールを履くたびに小鹿のようになっていた脚は真っ直ぐに伸び、そこそこ様になってきた。服だって以前の私が見たら絶句してしまうような露出度の高いものにも挑戦している。なのに、計画は上手くいかない。
「チッ」
正面に座るサンジの顔はどこからどう見てもチンピラだ、不機嫌丸出しの表情で煙草を吸いながら先程から灰皿を山盛りにしている。サンジの怒りの原因が分からない私は声を掛ける事も出来ずに不安げにサンジの様子をチラチラと伺っている。
暫くするとサンジはダンッと音を立てて床を蹴った、灰皿にまだ十分吸えそうな煙草を押し付けて、自身の頭を抱えるようにテーブルに沈むサンジ。
「サンジ?」
「……我慢してたおれが馬鹿みてェだ」
クソ野郎に横取りされるくらいなら攫っちまえば良かった、とサンジは自身の髪をぐしゃりと乱した。
「ナミとロビン、どっちに失恋したの?」
「君に失恋したんだけど」
信じられない事を口にするサンジに私は挙動不審な答えしか返せない、言葉にならない単語を繰り返しながらどうにかサンジの言葉を咀嚼しようと無理に脳を回転させる。
「……おれの武器なんて料理しかねェのにダイエットって言って食ってくれねェし、流石にもう無理」
「細い子が好きなんでしょ」
「……クソ野郎の好みなんて知らねェもん、知ってても教えてやんねェけど」
不貞腐れた声でそう言うとサンジは煙草に火をつけて、むすっとした表情でそっぽを向く。
「いつものおにーちゃんはお留守番?」
「お生憎様、おれはナマエちゃんの兄ちゃんじゃねェので」
「なら、恋人にしてくれる?」
私は椅子から立ち上がるとサンジ側に移動して、足元を指差す。
「このピンヒールはサンジとの身長差を埋めるため」
次は背中がかなり開いたワンピースの裾をちょこんと摘んでサンジの前で一回転する。
「ねぇ、サンジに釣り合うレディに見える?」
「……はは、おれの方が君に釣り合うかい?レディ」
サンジはもう一本、煙草を無駄にすると私の背中に両腕を回す。その腕は少し震えていて、緊張が伝わる。
「ふふ、サンジ緊張してる」
「ダセェから内緒にして」
唇に触れたサンジの指にちゅっと音を立てて、口付けを落とす。人差し指についたピンクにサンジはニヤっと笑ってこう言った。
「その口紅はおれの好みだよ」
「細い子は?」
「君なら何でも」
好き、嫌い、好きと繰り返した花占いは今になって好きを連れてきた。目の前に舞ったサンジの黄色の髪に私は手を伸ばし、好きを主張するのだった。