短編
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ここは人目がつかないから逢瀬には絶好だな、とサンジは彼女の唇に噛み付く。丁度、皆の目から死角になるこの場所で二人はいつものように唇を重ね、言葉を交わす。どちらかが決めたわけでは無いが海賊というのは危険が常に隣り合わせだ、明日の事だって正直分からない。
「いってきますとおかえりのキス」
二人はこうやって送り出しては互いの帰りを待つ、いつだったかサンジが冗談交じりに提案したのが始まりだった。それに彼女が、貴方って随分、可愛い事を口にするのね、と了承してからこの行為は何となく続けられている。
「ん……」
「きもちい……?」
「分かってるくせに」
今日も今日とて敵陣に突っ込む二人は互いの唇を重ね合う。サンジの唇に彼女のルージュが移り、妖艶な色を纏っている。彼女はそれにくすりと笑みを浮かべるとサンジの唇についたルージュを拭う。
「別嬪さん、ルージュがついてるわ」
「君からのマーキングかい?」
「そんなものが無くても、サンジは私のよ」
彼女はサンジの顎をクイっと指で支えると、自身の方に引き寄せる。
「マーキングというよりも願掛けに近いわね」
「願掛けねェ」
サンジはニヤリとした笑みを浮かべると自身の顎に添えられた彼女の手を引き、その唇に再度口付ける。
「一刻で帰ってきたら朝まで君の時間を頂戴、その約束があれば此処に戻って来れる自信がある」
「ふふ、一刻を過ぎたら?」
「生憎、おれはレディとの約束を違えたりしねェよ」
だから、レディも早く戻って来て、とサンジは彼女の頬を撫でる。はいはい、と言いながら彼女は自身の武器に手を伸ばす。
「また、後で」
「あぁ」
ご武運を、そう言って二人は船を下りる。ここからは別の場所の最前線で闘うであろうその背中にサンジは愛おしげな視線を送った。
敵のアジトに迎えば見るからに小物といった顔ぶれが並び、サンジを出迎える。ご立派なのは頭数だけか、と煙草の煙を燻らせながら呆れと溜息を同時に吐き出す。
「ウォーミングアップにもなりゃしねェ」
向かってくる雑魚相手に長い脚を叩き込む、文句を垂らしながらも敵の数を的確に減らしていくサンジ。こちらに用意された敵の弱さを考えれば、彼女の方に用意された敵の強さが少しだけ心配になる。ま、強ェ彼女が負けるわけねェけど、と片方の口角を上げて不敵な笑みを浮かべるサンジ。
「おれは加減が下手なんだ」
雑魚の脳天を吹っ飛ばして、次々に伸していく。そうすれば、先程まで後ろに控えていた恰幅のいい男がニタニタと笑いながら近付いてくる。その顔は自身の強さに酔っているというわけではなく、笑わなければやっていられないというサンジに対しての恐怖が浮かんでいる。
「そんな挙動不審じゃ死んじまうぜ?」
煽り文句を口にすれば、サンジの思考通りに男は挑発に乗る。その男の顔面に回し蹴りを食らわせて、倒れ込んだ男の額に革靴を押し付ける。
「帰ってナマエちゃんとファックする予定があるんでね、長居はしたくねェんだ」
サンジはそう言うと技を繰り出す。
「だから、消えてくれ」
その男が恐怖の中で最後に見たサンジの顔は善人のような笑みを浮かべていた。
「これならレディの機嫌を損ねないで済みそうだ」
そう言ってサンジは新しい煙草に火をつける、非日常な喧騒が飛び交う日常を脱ぎ捨てて、アジトを後にしたサンジはただの愛妻家に戻るのだった。