短編
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「おめぇらさ、喧嘩中なんだろ?」
「……そうだけど」
ウソップは私の方に椅子を向けて、ズカズカと私の視界に侵入してくる。私専用の領域に肘をついて、私の顔を見ながら溜息をつくウソップの失礼さに目を細める。
「ここからここは私の領域」
「みみっちい八つ当たりすんなよ」
「うるさい」
ウソップの言葉を一刀両断する私、不貞腐れたような顔で頬杖をつく私の背後を指差しながら、ウソップはもう一度、同じ質問をする。
「サンジと喧嘩してるよな……?」
「だから、してるって」
なら、後ろのそれは何だ、とウソップは呆れたような表情で私にそう尋ねた。
「サンジに何処へでも好きな所に行きなさいって言ったら此処に来たのよ」
「は?」
ウソップの呆れ顔は最もだ、私だって前までだったら同じような顔をしていた筈だ。だが、喧嘩する度にサンジは私を避けるのではなく、こうやって私の所に戻って来てしまうのだ。私が口を開く度に腰に回された腕にぎゅっと力が入り、サンジの存在を嫌でも感じる。
「邪魔じゃねぇの?」
「邪魔に決まってるじゃない」
「うぅ……っ……」
「後ろの奴、泣いてるけど」
言われなくても分かっている、サンジの涙が私の服を濡らして先程から背中がひんやりしている。ウソップはこの異常空間に長居したくないのか、好き勝手に喋ってキッチンから出て行った。
ウソップが出て行った扉を黙って見つめていれば、ナマエちゃん、と消え入りそうなサンジの声が背後から聞こえてくる。私は一つ溜息をこぼして、後ろを振り返る。溜息にびくりと肩を揺らしたサンジは潤んだ瞳で私を見上げる、客観的に見れば私がサンジを虐めているように見える光景だ。
「何で此処に来ちゃうかなぁ」
背中に擦り付けたせいでボサボサになった金髪を手櫛で軽く整えながら、私は喧嘩の度に疑問に思っていた事を口にする。酷くサンジを罵倒した時も口を聞かないレベルの喧嘩をした時もサンジはこうやって私の傍で泣いたり怒ったりしていた。
「……好きな所に行けって言われて、君の傍しか思いつかなかった」
それを聞いた瞬間、私はサンジをぎゅっと抱き締めていた。ただ、目の前の存在が愛おしくて、言葉を発する事も忘れて存在を確かめるように腕を回した。急な抱擁に戸惑った様子で私の名を何度も呼ぶサンジ、返事の代わりにその背中をポンポンとあやすように叩く。
「言い過ぎてごめんなさい」
「んーん、気にしてねェよ。おれも悪かったし」
「……私もサンジの腕の中がいちばん好きだよ」
普段、こんな事を言ったら間違いなく目をハートにして全身で喜びを表現するサンジ。だが、今のサンジは片目からポロっと涙をこぼして、私の輪郭を確かめるように撫でる。
「幸せに沈みそうだ」
それに形があるとしたら君なんだろうな、とサンジは言う。繊細な表現のようで熱烈な意味を持つ言葉を真正面から受け止めて、私はサンジの手に自身の手を重ねる。
「幸せに触れた感想は?」
「愛しいよ、此処が」
君の傍が一番だ、と穏やかな笑みを浮かべるサンジと此処で愛を謳い、たまに衝突するのも悪くない。そして、二人で幸せに沈むのだ。