短編
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無理、とサンジの厚い胸板を押し返して逃げ惑う私。サンジからしたら、きっと意味不明だろう。数時間前まで肩を寄せ合って服装の相談をしては、あっちは?こっちは?なんてお互いの手持ちの服を頭に浮かべては笑い合っていたのに、いざ、用意をして甲板に出てみたら徹底的に避けられるのだから。私は相変わらず布面積が足りていないナミを盾にして、サンジの悲しそうな顔から目を背ける。
「ったく、何なの?喧嘩?」
「……違う」
「なら、なぁに?ハッキリしなさいよ」
私はコソコソとナミの耳に顔を近付けて理由を打ち明ける。だが、打ち明けた途端、ナミに腕を引っ張られてサンジの前に問答無用で突き出される。
「この子、あんたの髪型とサングラスが格好良すぎて死んじゃうらしいから、ちゃんと見張ってなさい!」
「っ、ナミ!何で言っちゃうの!?」
こんな所でバカップルのお守りなんてしたくないもの、そう言ってナミは舌をベーッと出して優雅に手を振って、その場からいなくなる。その場に取り残されたのは死にそうな私と私の死因になる予定のサンジだけだ。カラーレンズ越しに私を見つめるサンジの瞳は随分と優しい、欲望に抗えずチラチラとサンジを見ては心臓を押さえて死にかけている私を軽蔑する事も無く、ニコニコと穏やかに私を観察しているサンジ。
「……見過ぎ」
「だって、かわいいんだもん」
サンジはショートパンツからはみ出た見せパンの紐をクルクルと指に巻き付けながら、私の腰を抱く。引っ張って脱がしちまいてェ、そう言って悪戯に紐を触るサンジの手をパシッと叩けば、そのまま引き寄せられてサンジの腕にしまわれる。
「っ、くく、心臓うるせェ」
腰を屈めて、私の心臓に耳を当てるサンジ。ふわふわの髪の毛が視界に入るせいか、心臓は限界値まで達して今すぐにでも破裂してしまいそうだ。
「……言ってなかったもの、こんな格好いいなんて」
サンジは私を見上げる、レンズ越しのタレ目がふにゃりと溶けて瞳の中の海が波打つ。サンジは私の手を持ち上げると、自身のふわふわな髪の上に乗せた。
「君に褒められたくて頑張ったんだよ」
だから、撫でて、と大型犬のように私の手に頭を擦り寄せるサンジ。
「セットが乱れちゃうわ」
「駄目かい?」
「……あとで、文句言っても知らないから」
「おれは君のいい子だから文句なんて言わねェよ」
それを言うならいい人でしょ、そう言ってサンジのふわふわな髪を撫でる私。サンジはサングラスを片手で外すと、髪を撫でる私の手のひらにキスをする。
「ほら、いい子♡」
悪戯をする幼子のようにサンジはニィと口角を上げて笑う。クソガキの間違いでしょ、とサンジの額を指で弾く私の顔は年下に弄ばれて真っ赤に染まっている。
「……馬鹿ガキ」
「馬鹿ガキにメロメロなお姉様はガキはお嫌い?」
サンジは舌をぺろりと覗かせて、私を見る。日に日に色気のある大人になっていくサンジはこうやって私を殺そうとする、善良な殺意と言えばいいのか、サンジは自身の外見の使いどころと私の急所を把握している。それが何だか悔しくて私はサンジのジャケットを自身の方に引き寄せて、その覗かせた舌に齧り付く。
「……っ、いってぇ」
「私、好きな子はいじめたい方よ」
そう言ってサンジの手からサングラスを奪い取って、私は逃げ出す。やり逃げ上等、と駆け出した先にいたナミを再度、壁にしてクソガキからの反撃に備えるのだった。