短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
レシピを書いているサンジの邪魔をしないように、ソファの端で丸くなる。イヤホンを耳に挿して、最近、ハマっているアプリゲームを開く。元々、オタクとして生きてきた私は三次元の男よりも二次元の男の方が安心して見ていられる。面倒臭い恋愛の駆け引きなんてしなくても、ゲームの中なら二つの選択肢の中から一つを選んでいけば大体は幸せになれるように出来ている。それに地雷の無い私はバッドエンドも楽しめる為、鬱展開が起きても何も思わない。これが現実だったらきっと面倒臭いだろうな、と夢の無い感想をぽつりと吐き出しながらログインボーナスを受け取る私。
月が替わり、ホーム画面に配置したキャラクターの季節ボイスも先月のものから今月の限定仕様に変わった。イヤホンから聞こえる今月の季節ボイスに頬を緩ましていれば、いつの間に書き終わったのかサンジがこちらを向き、どうかした、と尋ねる前に片方のイヤホンを取られる。
「また、浮気だ」
転がる私の横に座り込むと、サンジは私のゲーム画面を覗く。年齢制限がついているようなゲームではない為、見られても問題はない。
「サンジに似てるから浮気じゃないよ」
「似てるならおれでいいじゃん」
「今は二次元の気分なの」
横顔に降ってくるキスの雨を避ける私にサンジは眉を下げて捨てられた犬のような顔をする。
「意地悪しないで」
「サンジは二次元みたいだね」
「おれは画面の中だけじゃ嫌だよ」
私はサンジのその顔に弱い、普段は髭を生やして生き急ぐように大人のような顔をしているくせに何かあると迷子の幼子のような顔をして私を見るのだ。
先程までレシピを書いていたサンジの顔には眼鏡が掛けてあった。傷付いたらいけないから、と最もな理由をつけて眼鏡を外し、その素顔に触れる。
「よく分かったね」
「何の話?」
サンジは私の顔に自身の顔を近付けて、ちゅ、とリップ音を鳴らし口付ける。
「おれがキスしたいって」
幸せな顔をしてサンジはそう言った、付き合ってから二年が経つというのにキスの一つでここまで嬉しそうにされたら敵わない。ソファに転がしたままのスマートフォンの画面に映るサンジに似た彼は女好きだが女性に対してこんな愛情を向けてくるような男ではない、似ているのは髪色とスーツと髭くらいだろう。
「……やっぱり似てないかも」
「うん?」
そう言って首を傾げるサンジの表情は女性をオトすような狡い笑みではなく女性を安心させるような優しい笑みだ。
「さっきの浮気相手、やっぱりサンジに似てないかも」
「浮気って認めた!やっぱり……っ、う、浮気……!」
「指差さないの」
指を払い落とせば、サンジはまたジメジメときのこを生やしだす。ソファの上で嵩張る体をコンパクトに纏めてちっちゃくなる姿は愛おしいと思う。
「冗談だよ、サンジ」
「おれが浮気相手ってこと……?」
「どんな悪質な冗談よ」
サンジの頭を自身の胸に引き寄せて、ぽんぽんと頭を撫でる。
「このキャラね、女好きなの。サンジみたいにあっちこっちにメロメロするわけじゃなくてね、あっちこっちの女の子を食い散らかすヤリチンなんだよ」
「あ?何だ、そのクソ野郎」
「だから、似てない」
サンジはちゃんと女の子を大事にする人だから、そう言って笑う私にサンジは目をまんまるにする。
「ふふ、何をそんなに驚いてるの」
「……驚いたってより、照れかな。おれは女好きだしどうしようもねェけど、一番大切にしている女の子からそう評価してもらえるなんて思ってもみなくて……はは、こういうの照れ臭ェな」
サンジとだったら面倒臭い駆け引きをしてもいいと思った、選択肢が何個あろうとサンジとだったらバッドエンドなんて起きる筈がない。恋人が一番の推しだと言ったらサンジは信じてくれるだろうか、この二年で推しの順位は一切変動していない。
「おれは君だけだよ」
「私も」
「……ナマエちゃんは気が多いから」
サンジのぷくっと膨れた頬に手を添えて、その柔らかな唇に触れる。
「オタクの私は浮気者だけど恋人の私は結構、一途」
「恋人の君は誰を一途に愛してるの?」
分かりきった答えをわざわざ聞き出そうとするサンジに私はくすっと笑みをこぼす。
「二年前から同じ人よ」
「はは、おれじゃん」
分かりきった答えに心底、嬉しそうにするサンジ。そんなサンジと顔を近付けて、何度もキスをする。
「やっぱり、おれの方が君の可愛い顔を引き出せるよ」
あぁ、今日も私の推しが尊い