短編
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あまり自身を変えたいと思った事はない、それに付き合った男の為に自身を変えるなんて愚かな事だと思っていた。なのに今では、サンジの手によって変化し続ける自身が愛おしいとまで思う。
「傾国しちまうって」
慣れた手付きで私の肌に色を載せていくサンジはそんな大袈裟な台詞で私を褒める。私には国を傾ける程の美貌も君主の心を惑わせるような愛嬌もない。
「目の前のサンジの心を惑わすので手一杯」
その言葉に顔をドロドロに溶かしたサンジ、あらゆるパーツが垂れ下がって至近距離で見るにはインパクトが強過ぎる。ナマエちゅわ〜〜〜〜んと語尾にハートマークをつけてバレエのようにクルクルと回るサンジは先程まで真剣な顔をして私の顔に化粧を施していた彼とは別人のようだ。
「サンジ、デートの時間短くなっちゃう」
「おっと、いけねェ」
サンジは化粧ポーチの中からリップを取り出すと私の唇に筆で色を載せる、そのリップだって前の島でサンジがプレゼントしてくれたものだ。
「ん、やっぱりこの色にして良かった」
「可愛い?」
「クソ可愛くて彼女にしてェ」
サンジはそう言った後に幸せを噛み締めるように、こう続けた。もう彼女だった、と。
サンジに着せ替え人形のごとく着飾られた私は頭から爪先までキラキラしてる。最後の仕上げにサンジは床に跪いて、私の足に靴を履かせる。
「自分で履けるのに」
「ナマエちゃんは靴のことわざ知ってる?」
「なぁに、それ」
「良い靴を履いているとその靴が素敵な場所に連れて行ってくれるんだって」
私の足元に視線を落として、サンジは優しげな笑みを浮かべる。
「君の道が素敵な場所に繋がっていますように、っていつも思ってる」
「今日は靴じゃなくてサンジがエスコートしてくれるんでしょ?」
そう言ってサンジに手を伸ばせば、手の甲に触れるだけの口付けを落とされる。最初から最後まで童話の中の王子様のような振る舞いだ。
「任せて、レディ」
私の道はきっとサンジに繋がっている、迷った先に待っていた素晴らしい場所は今、私が立っているこの船の上だ。
サンジのエスコートに連れられて、私は島に下りた。ノープランな状態で島に下りてもサンジに着いていけば上手くいく。上手くいかない例は海軍に追われたり、同業者につまらない喧嘩を吹っ掛けられたり、私がナンパされたり、大体は第三者からの妨害だ。後者は人殺しのような顔をしてサンジがクソ丁寧にオロしてしまうので問題無いが、サンジにとってはそうじゃないらしい。
「ナマエちゃんを可愛いと思うのはおれだけでいい」
「サンジくらいしか言わないよ、今日のは偶々だよ」
「それはそれで腹が立つ、君はこんなに可愛いのに」
褒められても褒められなくてもサンジにとっては死活問題らしい、誰の目にも私を映したくないと泣き出しそうになりながら重い独占欲を吐露するサンジに私はいつも笑ってしまう。それは馬鹿にしてるわけじゃなくて、ただ、愛されてる事を実感して口元が緩んでしまうのだ。
「ここ、ロビンちゃんが美味いって言ってたんだよな」
「デート中に他のレディの名前は禁句」
デート中に他の野郎の名前は禁句、以前サンジに言われた言葉だ。その時のサンジの真似をして、少しだけ上にあるサンジの唇を人差し指でふにっと押す。
「これが夢だった嫉妬……ッ……」
「ふふ、違うよ。サンジの真似」
「……嫉妬してくれねェの」
「私の場合、うちのサンジ格好いいでしょ?お姉さん、お目が高い、みたいな気持ちになる」
二年以上、ずっと、ひたすらに愛情を惜しみなく注いでくれたサンジ。メロリン現場に遭遇しても疑う余地なく信じられる、あれは愛情ではなく女性に対する崇拝に近い。サンジの本当の愛情はもっと重くて、泣きそうになるくらい優しい。
「君の自慢のサンジくんは格好いいかい?」
「クソ格好良くて彼氏にしたい」
「可愛すぎるから真似っ子禁止」
それにもう君の彼氏だよ、とサンジは私の腰を抱いて耳元でそう囁くのだった。