短編
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前々からお互いのスケジュールを照らし合わせて、デートの予定を立てていた。昨日だって何を着て行こうか、と遅い時間までクローゼットの中身を出しては、あぁでもない、こうでもない、と鏡の前で一人ファッションショーを開催した。そのせいでソファの上は選抜に選ばれなかった洋服の墓のようになっていて、視線を逸らしたくなってしまう。それよりも私が視線を逸したいのは約束の時間から二時間経っている事を知らせる時計と目の前でニコニコと私の寝顔を覗き込んでいるサンジからだ。
「……自分から誘っておいて不甲斐ない限りです」
「はは、なにその話し方」
「だって、サンジ怒ってるもん」
一ヶ月ぶりに見るサンジは記憶以上に格好いい、デートだから張り切ってくれたのか髪はフワフワにセットされ、頭から爪先まで満点だ。それに比べて、自身は寝癖がぴょこぴょこと跳ねた頭に伸び切ったTシャツ、下はサンジが置いていったスウェット。
「おれ、怒ってねェけど?」
「二時間の寝坊は怒るべきでしょ」
サンジは優しい笑みを浮かべながらソファを指差す、問題のソファは昨夜と変わらずにゴミ溜めのような状況だ。
「あれさ、今日のお洋服選んでくれたんでしょ」
「う……そうなんだけど、あんまり見ないで」
「おれも一緒」
家の中めちゃくちゃにして来ちまった、とサンジは恥ずかしそうに頬を掻く。
「あのモデルルームみたいな部屋を?」
「なにそれ」
「綺麗過ぎて嫌になっちゃうって話」
「君が来る日だけだよ、普段はもっとラフな感じ」
ま、今日は特別、汚くしてきたけど、と戯けるサンジに私もくすっと笑みをこぼす。
「私の部屋と良い勝負?」
「おれが圧勝かな、君と会わねェとやる気が出ねェからさ」
それは私も一緒だ、サンジと会わない一週間は長くて仕事のモチベーションだってない。無駄にスマートフォンを確認してしまうのがいつの間にかクセになっていたし、0件と表示されるメッセージに溜息をついてはナミに辛気臭い顔と貶される日々を送っていた。
「サンジと毎日会いたいな」
ぽつり、とこぼれた独り言は紛れもない本音だ。ただ、静かな部屋にはよく響き、目の前のサンジの耳にもしっかりと届いてしまった。なんてね、と誤魔化した所でもう遅い。サンジはベッドに腰掛けると私を抱き上げて膝に乗せる、向かい合うように座るとサンジは自身がつけていた伊達眼鏡を外して、私の額に自身の額をコツンと当てた。
「おれも」
「大人ってままならないね」
「我慢ばっかり上手くなる」
そう言って顔を見合わせる私達はもう子供じゃない、深夜に会いたいと思っても自転車をかっ飛ばして夜を渡るような事は出来ない。
我慢なんてくだらねェな、と笑うサンジは私の両手を自身の手で包み込むと愛おしげに口付ける。
「おれはクソガキだから」
君に同棲を申し込むよ、そう言ってサンジは私が中々、口に出せなかった同棲の誘いをいとも簡単に口にした。
「毎日、君の隣に帰ってきていいかい?」
「うん」
「デートの前日は二人で部屋を汚そうぜ」
「ふふ、うん」
頷いた私をサンジはぎゅっと腕に閉じ込めた、そして、いつから暮らそっか、とまた弾んだ声で私に問い掛けるのだった。