短編
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「ヴィンスモーク」
美しい口には似合わねェ名前だ、とサンジは新しい煙草に火を付けながら苦虫を噛み潰したような顔をする。そんなサンジの様子に気付いていない彼女はサンジに向かって、もう一度ヴィンスモークサンジくん、と口にする。
「君の口からは特に聞きたくねェな」
彼女のふっくらとした唇に指を置いて、シーッと寂しそうな笑みを作るサンジ。それ以上はいけないよ、と。
彼女はサンジの手を引いて、隣に座らせると寂しそうな表情を浮かべたままのサンジの頭を優しく撫でる。
「北の海では良い名ではないのかもしれない」
「……あァ」
「でもね、未来は変える事が出来るでしょ?」
隠していない方の眉に口付けを落とせば、まんまるに見開かれるサンジの目。普段だったらキス一つで飛び上がって鼻血を吹き出すサンジにしては随分と可愛らしい反応だ。
「未来……」
「だって私達、ルフィの仲間よ」
その内、海賊王の一味としてその名が知れ渡るわ、と彼女は言う。それ以外の未来は存在していないとでも言うような力強さにサンジの強張った体から力が抜ける。
「数年したら東の海、北の海、そして新世界でヴィンスモークと聞いたら皆、黒足のサンジを思い出す。ジェルマではなく、誰よりも優しくてレディにとても弱い海の一流コックを頭に思い浮かべるわ」
もう既に私は貴方を思い浮かべてる、と彼女はサンジの広い背中に腕を回した。煙草を素早く灰皿に押し付けたサンジは彼女の背に腕を回して、ずりィな、と涙声で口にした。
「君には敵わねェ」
「私は何も言ってないわよ」
サンジの頭を自身の肩に引き寄せて、そのまま金髪を梳くように撫でる彼女。やっと自身の元に帰ってきた愛しい存在を涙の海から救う為に彼女は荒治療と分かりながらも、幼いサンジを否定した、その忌々しい名を口にする。
「……俺はヴィンスモークでも黒足でもなく、君の恋人として歴史に名を刻みてェ」
「ナマエのサンジって?」
「そりゃあ、いい。君の野郎避けにもなって最高だ♡」
彼女は片手で器用にテーブルの上に転がったペンをひょいと掴むと、サンジの手配書の横に置いてある自身の手配書の通り名の上に大きなバツを描く。
「ナマエちゃん?」
急に黙り込んでしまった彼女に不安になったのか、サンジは彼女の名を呼ぶ。
「ねぇ、サンジくん」
私の手配書はもうサンジのナマエよ、と彼女は自身の字でサンジと大きく書かれた自身の手配書を片手に笑ってみせるのだった。