短編
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甘える事を悪だとでも思っているのか、サンジは滅多な事では甘えてこない。どうしようもなくなってからか、事後報告。仲間には勿論のこと、恋人の私にはそれ以上にサンジは弱さを隠してしまう。
「だけど、流石に見逃せない」
「……ハイ」
目を吊り上げて仁王立ちする私の目の前で正座をして、背中を丸めているサンジ。悲壮感が漂うサンジの顔にはハッキリとした隈が浮かび、目の下は塗り潰したように真っ黒になっている。チョッパーに薬を処方されているらしいが、この顔を見た限りじゃ効いてはいないだろう。
「いつから寝れてないの」
「……ちょっと寝付きが悪ィだけだよ?」
「サンジのちょっとは信じていないの」
私はサンジの意見をバッサリと切り、サンジの両頬に手を添えて、至近距離でその不健康丸出しの顔を観察する。濃い隈に充血した目、死人一歩手前の肌色。
「……ホールケーキアイランドを出た辺りからまともに寝てないでしょ」
「はは、君には何でもお見通しか」
笑い事じゃないわ、とその頬をパチンと叩けば、サンジは眉を下げて困ったように笑う。
「大した事ねェつもりだったんだけどさ、毎晩、毎晩、同じ夢ばっかり見てちゃ寝れるもんも寝れなくなっちまう」
「同じ夢?」
「出来損ないの夢」
サンジはそれ以上、夢の内容を話す事は無かった。だが、その表情は危うい儚さを含んでいた。
「チョッパーから部屋を借りる許可が下りたから今日から私と寝なさい、サンジ」
有無を言わせない強い口調で私はサンジにそう言い放った、これぐらい強引じゃないとサンジは頷いてくれない。普段はエッチな事ばかり考えているくせに、こういう時だけは嫌になるほど紳士的なのだ。
「えっと、拒否権は?」
「拒否したら別れる」
「そりゃねェよ、ナマエちゅわん……」
スウェット姿のサンジを腰に巻き付けて、私は引き摺るように部屋に運ぶ。背後からは、やだ、別れねェ、破局地雷、と数多の拒否の声が聞こえてきて私はつい肩を揺らしてしまう。それがお気に召さなかったのか、腰に巻き付けた腕に力を入れてぎゅーっと私を抱き潰すサンジ。ギブ、ギブと笑い合いながらベッドに転がるとサンジはそのまま私の背中に顔を埋めた。
「サンジ?」
「……ありがと、ナマエちゃん」
「まだ何もしてないけど」
「おれ、人と二人っきりで寝るのはじめてなんだよね。ジジイは一緒に寝てくれるようなタイプじゃねェし、血の繋がりがあったアイツらとは、まぁ、あんな感じだし……それに、お母さんは体が弱かったから、あんまり一緒にはいれなかった」
サンジは私のワンピースをくしゃりと掴むと、だから、ありがとう、と泣きそうな声で礼をした。
「……サンジの顔、見たい」
「今、ちょっと情けねェ面なんだが笑わねェ……?」
いじらしいサンジの様子に私は、えい、と勢いよく後ろを振り返る。鼻がぶつかってしまうような距離まで顔を近付けて、私は笑った。
「嬉しいから笑っちゃった」
「……っ、かわ、い」
そう言って、ぎゅーっと抱き着いてくるサンジの頭をよしよしと撫でる。
「朝までいてくれる?」
「サンジの方が朝早いでしょ」
「……もし、夢を見ておかしな事を言い出してもいつも通りにおれと接してくれる?」
「おかしな事?レディに対してはいつも変じゃない」
そりゃねェって、ナマエちゃん、そう言ってサンジはここ最近で一番マシな顔をした。
「嘘よ、何も考えないで寝ちゃいなさい」
私はちゃんとあなたが泣いても暴れてもここにいるわ、と伝える。重力にしたがって前髪の隙間からサンジの両目が覗く、その目は段々と瞼が下がっていく。
「明日もちゃんと愛しているわ」
「ん」
サンジがどんな顔で起きてこようと私はその体を抱き締めて、おはよう、と今日のサンジを認めてあげる。
「だから、安心しておやすみなさい。いい夢を」