短編
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擽ったい音がする、とサンジは言った。心音の違いなんて知ってどうするんだと呆れ顔を浮かべる私の胸に頭を預けて、擽ったそうに笑うサンジ。その様子が邪気のない赤子のようで、つい、丸い頭を甘やかすように撫でてしまう。
「赤子って生まれたばかりでも音が拾えるそうよ、母胎から明るい所へ出た時の音や胎教の為に聞いた音楽、そういう音の記憶がある子もいるんですって」
「おれは赤ん坊じゃねェよ、ナマエちゃん」
「大きな赤ちゃんで十分よ」
そう言って、その尖った唇に人差し指を押し付ける。サンジはリップ音を鳴らしながら、私の人差し指を押し返した。
「指しゃぶりでもする気かしら」
「はは、それもいいかもね」
戯れるように私の胸に凭れかかるサンジ、体重がこちらにかからないように調整されているのか重さは感じられない。
互いの心音と海がさざめく音だけが鼓膜を揺らす、普段からサンジは騒がしい男であるが二人きりになるとやけに静かになる。口数が減るというよりも声のトーンがグッと下がる、最初は嫌われているのかとも思ったがサンジの様子を観察した感じではどうやらそうではないらしい。
「……サンジの心音は静かね」
生死の不安定さというよりも、知らずのうちに身体の力が抜けてしまうような静けさなのだ。それはどこか夜の静けさに似ている、ベッドに沈むような安心感がある。
「子守唄みたい」
「次は君が赤ん坊かい?」
「落ち着くって事よ」
あんたの音が、そう言ってサンジの胸をトンと叩けば故障でも起こしたかのようにサンジの心音が乱れる。
「ダセェな」
サンジは苦笑いをこぼすと、煙草に火をつける。未だに心音の乱れは収まっていない。
「体調でも悪いの」
「我慢してたのが爆発しただけ」
「何に対して?」
その瞬間、私の視界は真っ暗になった。サンジに頭の後ろに手を回され、シャツ越しの厚い胸板に頭を引き寄せられる。近くで聞こえる心音はバクバクと煩い、夜の静けさとは真逆だ。
「君を好きだって音」
「……煩い」
「あれ、安心してくれねェの?」
自身の心音もつられて故障したようだ、サンジが言う擽ったい音は音を変え、自身の胸を突き破るように煩く高鳴る。こんな気付き方したくなかった、と溜め息を吐いた所でサンジの耳にはちゃんと全てが届いているのだろう。視線を向けた先でサンジは確信的な笑みを浮かべて、こう言った。
「そんな音させたら勘違いしちゃうよ、ナマエちゃん」