短編
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何番目かもしれないし何百番目かもしれない、サンジと付き合ってから私が一番だと実感出来た事は無い。ナミにメロリンする暇があるなら私の変化に気付いて欲しい、島に降りたらナンパじゃなくて私をデートに連れて行って欲しい。それを言えるほど、私は我儘になりきれない。
勢いで買ったペアリングはシルバーの華奢なデザイン。サンジは料理をするからチェーンも、なんて気の利く彼女ぶったのがいけなかったのか、寝ているサンジの指にそっとはめたリングはサイズすら合っていなかった。一回り大きなそれは不恰好でサンジに不釣り合いな自分自身と似ていて酷く惨めだった。その場でリングを回収し、パーカーのポケットに突っ込んだ。
甲板に立ち、価値の無くなったリングを太陽に翳した。陽が反射してキラキラ輝くそれを海に投げ捨てる。指のサイズすら知らない私、世界中のレディに愛を振り撒くので忙しいサンジ。もういいや、と泣くのを我慢しながら指輪が海に沈んでいくのをただ静かに見つめる。その静かな空間を邪魔するように私の横を何かが勢い良く通り過ぎる、気付いた時には派手な水飛沫が上がっていた。甲板に無造作に捨て置かれた革靴にジャケット、それはサンジの物だ。
「サンジ……!」
私は身を乗り出して目を凝らす、幸い海の流れは穏やかだ。だが、中々、サンジは上がって来ない。私は誰かを呼ぼうと海に背を向けて、船内に戻ろうとする。だが、下から私の名前が呼ばれる。
「ナマエちゃーーん!あった!」
は、と渇いた喉が張り付いて上手く言葉が出ない。サンジの手には私が今さっき投げ捨てたばかりの指輪があった、何でそんなもの拾いに行ったの、と震える自身の身体を抱き締めながら私は甲板に崩れ落ちる。私がいきなり消えたからか、サンジは真っ青な顔で全身びしゃびしゃな状態で私の前に滑り込んできた。
「ナマエちゃん!大丈夫かい?どこか苦しい?」
見当違いな心配をしながらサンジは私の背中を支える。私はサンジの手に握られた指輪をひったくり、再度、海に投げようとするがサンジの手がそれを邪魔する。
「これは私のよ」
「どう見ても君の指には大きいんじゃないかな、レディ」
白魚のような君の指にはゴツ過ぎるよ、と私の指にリングをはめるサンジ。
「ほらね」
「……あなたにだって大きいわ」
「んー、なら、ちょっと借りるね」
サンジは私の指からリングを抜くと、自身の薬指でも人差し指でもなく親指にはめる。そして、見て、見て、と嬉しそうに太陽にリングを翳した。
「ピッタリみたいだよ?ナマエちゃん」
黙り込む私に不安になったのかサンジは浮かべていた笑みを引っ込めて、眉を下げて私の両手を包み込むように握る。
「……君にとってはいらないものだった?おれにとっちゃ、喉から手が出るほど欲しいものだったよ」
「あなたを縛り付ける為に買ったものよ、最後は私の所に帰って来て欲しいって……っ、他の子じゃなくて、私を選んでよ……」
聞き分けのいい子にはなれない、我慢強い子にもなれない、結局、最後は面倒臭い事を言ってしまう。海にリングごと沈んじゃえば良かった、と泣き喚く私をサンジは濡れた身体でぎゅっと抱き締めた。
「普段のおれの行いは褒められたもんじゃねェよな、すまねェ」
とんだクソ野郎だ、吐き捨てるようにサンジはそう言うと私の目尻に溜まった涙を指で何度も拭う。
「許して欲しいとは言わねェ、ただ、おれは泣いている君を前にしたら、他のレディの涙を見て見ぬフリしちまうような男だって知ってて欲しい」
優先順位はいつだって君だ、とサンジは真剣な顔で言葉を紡ぐ。
「他の子ナンパしたら殴っていい?」
「マゾになりそう」
「ナミにメロリンしたら私に二倍メロリンして」
「なにそれ可愛い♡」
「……指輪のサイズ教えてください」
サンジは耳元に口を寄せて、次は俺が用意するよ、と手で輪っかを作り、私の薬指にはめた。勿論、ここに、という言葉と一緒に降ってきたキスは私を一番にしてくれた。