短編
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人間は欲張りな生き物だ、付き合っても身体を重ねても満足しない。それ以上を手にするにはどうすればいいのか、それ以上とは何か、余計な事ばかり考えて結局は手詰まりに終わる。シーツの上でピッタリと隙間を埋めるように身体を密着させて、腕の中にいる金ピカ頭の旋毛にキスを落とす。やけに静かなサンジ、沈んでいるというよりも何かを考えているような難しい顔をしている。
「何かあった?」
サンジは首を緩く振って彼女を見上げると、彼女の目尻に口付けた。何でもないよ、と。
「本当に?」
秘密を吐きなさいとでも言うようにサンジの脇腹を擽れば、サンジは身体をくねらせて笑う。そして、目に浮かんだ涙を指で拭うと空いた手で彼女の悪戯な手を掴まえる。
「ったく、困ったレディだ」
「秘密にするからいけないのよ」
「何も秘密なんてねェもん、今日だってナマエちゃんがクソ可愛くて幸せだしエッチだって気持ち良かった。満足いく百点満点」
サンジの顔はどうみても百点満点じゃない、0点とまではいかないが不完全燃焼といった所だ。サンジの整った憂い顔をぶにゅりと両手で押し潰し、嘘つき、と彼女は不満そうな顔をする。
「まじなんだけど」
正面でぶすくれた顔を晒す彼女にサンジは小さく噴き出すと彼女の腕から抜け出して自身の腕の中に彼女を閉じ込める。
「ふは、納得いかねェって顔してる」
「クソ納得いかねェって顔よ」
おれの真似にしちゃキュート過ぎねェか、と先程のテンションをかなぐり捨てて器用に目をハートにするサンジ。シリアスになりきれないサンジに笑えばいいのか、情緒不安定かとツッコめばいいのか分からない彼女はサンジの顔をジッと見つめて、出方を待つ。
サンジは彼女の身体をぎゅっと抱き締めると、首筋に顔を埋める。
「ただ、それ以上って何だろうなって考えてた」
「うん」
顔を上げたサンジは彼女の頬に片手を伸ばし、親指の腹で白肌を撫でる。
「今よりパワーアップじゃねェけどさ、君のそれ以上になりたい。恋人だから勿論一番はおれだけど、毎日、昨日のおれ以上になりてェ。今日のおれに惚れ直して欲しい、毎日振り向かせてェっていうか、何だろうな、これ」
おれ自身も分かんねェ感情ってやつ、そう言ってサンジは仰向けになるとホテルの真っ白な天井を見つめる。そんなサンジの手を握り締めると、私も同じように仰向けになる。
「欲張りなんだから」
「ナマエちゃんにそう作り変えられた」
「責任転嫁禁止よ」
サンジはこちらに戻って来てからうんと欲張りになった、そんなサンジが彼女には愛おしかった。慎重なのかヘタレなのか分からないスピードで始まった恋は猛スピードでいつの間にか愛になっていた。
「君を夢中にしたいのかも」
「これ以上?」
「んふふ、これ以上」
「笑い方がマイナスね」
そりゃねェって、ナマエちゃん、そう言って枕に顔を沈めるサンジ。誰と付き合っても身体を重ねてもサンジはこうならなかった、内に潜む冷静な自分自身が毎度、いつかの終わりを予感するのだ。永遠は無い、と。だが、彼女と付き合ってからはどうだろう。彼女だから毎日、同じ相手に満たされたいと願う。毎日、彼女を振り向かせて夢中にさせたいと足掻く。サンジは毎日、恋をしている。永遠を教えてくれた彼女に覚めない愛を夢見ながら、それ以上を探すのだ。