短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
体調が悪いわけでも、何かがあったわけでもない。無駄に苛々したり集中力が切れたり、人間の心身はままならない。そんな状態のまま無意識に口から出た言葉は鋭く尖って、サンジの柔らかなハートなんて滅多刺しにしてしまうような威力があった。サンジは芝居掛かった動きで心臓を押さえると、おれの胸にクリーンヒットだよ、と言って床に崩れ落ちる。きっと、言われたくない事だった筈なのにサンジは私に気を使って冗談にして笑わせようとしてくる。
「そういう所が嫌い」
床に崩れているサンジの背中を寝そべったまま素足で足蹴にする、勿論、力加減はしているが褒められた行為ではない。サンジは私の行儀の悪い足を掴まえて、自身の腰に巻き付ける。
「足癖が悪いレディだ」
「……うっさい」
サンジから優しさを与えられる度に自己嫌悪で死にたくなる、八つ当たりして足蹴にして、結局、最後に残るのは苛々ではなく後悔ばかりだ。優しいサンジが嫌い、何でも許してくれる所が嫌い、そして、それよりも嫌いなのは優しさを上手に受け取れない自分自身にだ。
自己嫌悪丸出しの泣きっ面を隠すように、両腕で顔を隠す。サンジはこちらを向かないが、きっと私が泣いている事にも気付いている。レディの涙の落ちる音が聞こえるらしいサンジの特殊な耳は頬を伝って床を濡らしている涙の音を拾っている。
「ナマエちゃん」
そっち、向いていいかな、そう言って言葉と同時に私の方を振り返るサンジ。
「……まだ返事してない」
「悪ィ、こんな雨降らしてちゃ放っとけねェわ」
サンジは私の顔を覗き込んで、目の端に浮いた涙を指で拭う。ぽろぽろと頬を濡らす前に親指の腹に染み込む涙、土砂降りになる前に止めてくれて良かった。
私を抱き締めて、背中をゆっくりと撫でるサンジ。一定のテンポでポンポンと撫でてくれる手が優しくて、私はぐしゃぐしゃな顔のままサンジの胸に顔を埋める。
「優しい所が嫌い」
「うん」
「何でも許してくれる所が嫌い」
「うん」
サンジは私の暴言まがいの告白に相槌を打つ。だけど、傷付いている様子は感じられない。
「嫌いって言ってる声が好きを物語っているから」
おれはちゃんと君の言葉から本当を見つけられる、そう言ってサンジは私の旋毛に口付けた。顔は見えないが、きっと泣きたくなるくらい優しい顔を私に向けているのだろう。
「……甘やかし過ぎ」
嬉しい、大好き、言葉の裏に隠れてしまった気持ちがちゃんとサンジに伝わればいい。
「可愛い」
「ばか」
「君に足蹴にされてちょっと興奮した」
「……っ、本当にお馬鹿」
でも、そんな馬鹿が大好きなんでしょ、なんて良い笑顔を向けられたら否定なんて出来る筈がない。
「自意識過剰」
「愛されてる自覚があるって言ってよ、レディ」
愛してるじゃ足りないくらいにはサンジを想ってる、そう言ったら目の前の男はどんな顔をするのだろうか。バレバレ、と笑ってくれるだろうか。
「おれはもっと愛してるけど」
ニヤリと片方の口角を上げたサンジは私の間抜けな口を塞いだ。口から出てた、そう言って。