短編
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貢ぎ癖のある恋人の躾方を模索している、イベント時は勿論の事、日常的にも随分と贈り物を貰っている。衣服にアクセサリー、花にスイーツ、貧乏海賊団のクルーにあるまじき、金遣いの荒さだ。目を離すと直ぐに両腕いっぱいにショップ袋を持ち、プロポーズを期待してしまうような大輪の花束を抱えていたりするサンジ。
「恋人はサンタクロースじゃないのよ」
「君の為ならサンタクロースにでもなるよ」
季節外れのジングルベルを口ずさむサンジの脚は軽快なステップを踏むように私の隣を歩く、このまま大人しくサニーに戻れたらいいな、という私の願いはサンジの足が止まった事によって打ち砕かれる。
「……次は何」
「あれ、麗しい君に似合うんじゃねェかなァ」
ショーウィンドウを指差して、何度目か分からない貢ぎ物候補に足を止めるサンジ。数分前の貢ぎ物候補は華奢なピアスだった、勿論、買わせていない。
「なァ、駄目?」
何度、可愛い顔でお願いされても駄目な物は駄目だ。言い慣れてしまったノーを口にして未だ立ち止まったままのサンジの手を引き、歩き出す。
「前は貰ってくれたのに……」
「前は前、今は今」
ちぇ、と行儀悪い舌打ちをこぼしたサンジは繋いだ手をぎゅっと握り直し、先程よりも落ち着いた足取りで歩を進める。
「機嫌悪くした?」
「んーん、ただ、何で受け取ってくんねェのかなって」
「逆に何でそんなにプレゼントしたいの?」
サンジは私の問い掛けに秘密を打ち明けるように声を落として、柔らかな表情で答えてくれる。
「君が船に乗った時にさ、ネクタイくれただろ?お近づきの印に、って」
「わー、懐かしい!」
クルーの趣味嗜好なんて分からず、ほぼ食べ物やお酒の消えものに頼ってしまった私。だが、サンジのプレゼントだけは店を回ってコレだと思ったネクタイを贈った。
「……でも、あの一回だけよ?」
「嬉しかったんだ、特別みたいで」
だから、おれも君に同じくらい返したかった、とサンジは眉を下げて笑った。
「気持ちだけで十分なのに」
「それに毎回、君は返してくれるだろ。花を贈れば、その花に込められた想いごと大事にしてくれる」
「赤い薔薇はあなたを愛してる、カスミソウは永遠の愛、赤いゼラニウムは君ありて幸福だったかしら。あなたといると余計な知識ばかりが増えるわね」
つい、照れ隠しで一言余計に言ってしまうのは私の悪い癖だ。サンジは私の悪い癖に突っ掛かる事もせずに、君に余計な知識を披露出来る事を光栄に思うよ、と片方の口角を上げて、ずるい笑みをこぼす。
「はいはい、だけど今日は花束はいらないわ」
「一本だけ」
「……花じゃなくてサンジの手を握って、早くサニーに帰りたい気分なの」
だから、今日はいいの、そう言ってサンジの手を握って数歩先を歩く。後ろからは、だらしない顔をしているであろうサンジのメロリン声。
貢ぎ癖のある恋人の躾方を模索している、頭ごなしに禁止にするよりも効き目があったのは私の素直な言葉だ。欲しいものではなく、されたい事を口にすれば、あの頃、無意識に求めたサンジがいた。次は私がネクタイを贈るのもいいかもしれない、貢ぎ癖のある愛しい人へ、愛を込めて。