短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
何でもありな新世界のご都合主義に巻き込まれた私とサンジ、見た目には何の違和感もなく他のクルーは首を傾げるばかりだ。だが、当事者の私達はぷるぷると震えながら違和感に口を閉ざす。
「おめぇら、結局、何が変わったんだ?」
顎に手を当てて、首を傾げるウソップの問い掛けに私は渋々といった様子で隣を指差す。
「あっちにサンジが入ってる」
自身の口からサンジの低音が響き、違和感が凄まじい。隣で死にかけた顔をしている自身の中にはサンジが入っている、魂だけが入れ替わっているのだ。ゾロとロビン以外のクルー達が大騒ぎしているが、私はそれどころじゃない。
「ったく、何でよりによってコイツなんだ」
「ハァ?こっちの台詞ですけど?」
顔を近付けて、互いに青筋を立てながら不満を口にする。幼稚な言い争いをしていれば、後ろからナミの拳骨が落ちてくる。
「喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
「サンジが先に喧嘩を吹っ掛けてきたのよ」
「今はアンタがサンジくんよ」
げえ、と吐き真似をすればナミを挟んで向こう側にいたサンジが馬鹿にしたような表情を向けてくる。
「私の顔で不細工な顔しないで」
「元々の間違いじゃねェの」
売り言葉に買い言葉、私達の会話なんて互いの悪口で形成されているようなものだ。今までも、これからも、きっと変わらない。
「なァ、おまえ」
その場を解散した後にサンジは私の腕を引っ張り、人気のない甲板に連れてきた。何、と振り払った手は思いの外、強かったようでサンジの体がふらりと傾いた。
「……っぶね」
「サンジっていつも手加減してくれてたのね」
「別に」
こんな関係でも一応、サンジにとって私はレディの立ち位置らしい。手加減するくらいなら普段から優しくしろ、と噛み付いてしまいそうな口を閉ざして、サンジからのアクションを待つ。
「……お前さ、チョッパーに見てもらえよ」
「さっき、一緒に見てもらったわ」
「違ェよ、目だよ」
おまえの目、おかしいだろ、そう言ってサンジは似合わない表情で私を見る。それじゃ、まるで心配しているようだ。
「……サンジだって見てもらいなさいよ」
「ハァ?」
「アンタの目だって変」
どこが、と言いたげな顔の周りにはキラキラとしたエフェクトが掛かっている。そして、自身の顔が5割増しぐらいに見えるのだ。ナミやウソップの周りにはそんな浮かれたハートもキラキラも飛んでいなかったのに、私を見ている時だけおかしいのだ。そう説明すれば、サンジも同じような症状を口にする。
「ただでさえ、レディにモッテモテのおれの顔面が更にモテちまうぐらい格好良く見える」
「はいはい」
「肯定しろよ」
目より頭を見てもらったら、と素っ気なく返せば、イーーッと子供みたいに地団駄を踏むサンジ。私の体でそんな真似するな、と口を開こうとしたタイミングで島に下りていた数人が帰ってきた。
「ナマエー!サンジー!おまえら戻れるぞ!」
「っ、ばか、ルフィ!あれは二人の気持ち次第だって言ったでしょ!」
「だって、あいつら好きだろ?お互いのこと」
ルフィのあっけらかんとした物言いに私は先程まで地団駄を踏んでいたサンジにぎこちない視線を向ける。頭一つ分、下にあるエフェクトに囲まれたサンジは赤く染まった顔で私を睨む。
「おまえら早くキスしちまえよ、好きなんだろ」
「は?好き?キス?」
「キスでしか戻れねーっておっさんが言ってた」
ルフィの一言にくらりと頭が揺れる、キスに対してではなく自身の鈍さにだ。
「……エフェクトっていうかフィルター」
「おまえにおれってこう見えてんの」
「うるさい、アンタだってそうでしょ」
早口で捲し立て合う私達の顔は情けない程に真っ赤だ、ルフィの空気の読めない一言で暴かれた恋心を悪口で包んでぶつけ合う。
「あんたなんて別に好きじゃないんだから……!」
「は?おれは好きですけど?」
「なら、キスの一つでもさっさとしなさいよ!」
「へーへー、うっせェ女」
私の顔をしたサンジはそう言って唇に噛み付く。次に目を開けたらフィルターが掛かったサンジの顔が視界を埋めるのだろう。唇の隙間から煙草のフレーバーが広がるのを合図に私は目を開くのだった。