短編
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一度だけサンジに頭を下げた事がある、私と喋るのは難儀だから手間を掛けさせてごめん、と手話を用いて自身の欠点を謝る私の両手をぎゅっと一度握って、すぐに手話で優しい言葉をくれる。
「手話に筆談、君とお話出来る手段が沢山あっておれは幸せだよ。レディを口説く手段は口だけじゃないって分かったからね」
そう言って細長い指を器用に動かして、私とのお喋りを楽しんでくれるサンジ。サンジの元々の声を聞く事も知る事も出来ないが、きっと人柄と同じでとっても優しくて甘い声を出す人なんだろうなぁ、と頭の中で想像してみる。
「なぁに、可愛い顔して」
「どんな?」
「口説き甲斐のある顔」
その時の意地の悪い顔は恋愛初心者の私には大ダメージだった、言葉なんてなくても私の真っ赤に染まった顔がサンジに好きを伝えてしまう気がして自身の顔を両手で覆った。
サンジの声を知らなくてもサンジの優しさならいくらでも知っている。
「ナマエちゃん」
私が驚かないように肩は叩かず、わざわざ正面に回ってくれるサンジ。その手には今日の分の手紙が握られている、サンジはたまにこうやって手紙をくれる。筆談をする際にノートに書いた私のまるっこい字を褒めちぎったサンジは、君の手紙が欲しい、と言った。
「今日も分厚いわね」
何枚書いたのかしら、と笑う私にサンジは照れ臭そうに笑って指を動かす。
「……これでも短くしたんだぜ?」
「本当?」
サンジは頷くと後ろ髪をくしゃりと掻く。気まずそうに視線を逸らすサンジの正面に回ると右手を垂直に立てて小指で左手の甲をトンと叩く。ありがとう、と。
「どーいたしまして、レディ」
垂直にしたままの右手を引かれて、ちゅっと触れるだけのキスが降ってくる。手を引かれていては手話の一つも出来ない私は顔を赤くして、やられっぱなしになるしかない。
サンジは自身の膝に私を座らせると後ろから腕を伸ばす、その腕は私の手に握られた手紙の封を開ける。なぁに、と後ろを振り返ればサンジの口がゆっくりと動く。
「んー、答え合わせ?」
口の動きを読める私は、何の答え合わせだろう、と呑気にサンジが書いた手紙に視線を落とす。いつも通りの甘くて優しい文章に目を通す、時に口元を緩めたり、時にもうと唇を尖らせたり、私の肩に顎を置いてニコニコと笑っているサンジにはきっとお見通しなのだろう。そして、最後の便箋に視線を落とせば、私の大して機能しない喉から、へ、と情けない言葉が漏れる。そこには線なんてお構いなしと言うように大きな字で、答えはイエスだよ、と書いてある。私は言葉の意味を理解する事が出来ず、サンジの方に体を向ける。
「何の答え?」
サンジは指を忙しなく動かしながら、君の赤面に対してかな、と戯けたように答える。
「手話や筆談がなくても君の好きは見逃せねェの、おれ」
熱が上がっていくようだ、顔は熱いし言葉を話す手は落ち着き無く自身のスカートをぎゅっと握る。
「おれも君に恋してる」
「……さん、じ」
まともに使ってない喉は三文字を口にする事すら上手く出来ない、自身の耳に反響するような違和感がある。
「すき、さんじ」
すき、と馬鹿の一つ覚えのように喉を震わす私の体にサンジの長い腕が回される。この耳じゃ言葉なんて聞こえないのにサンジの声が聞こえた気がした。
「好きだよ、君が」
それは、きっと私と同じ音。