短編
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派手な血飛沫を上げて、死にかけているサンジ。周りがキャーキャーとサンジの生死を心配している中、私はただただ今の現状が面白くなかった。勿論、心配していないわけではないが自業自得でしょという気持ちが強い。サンジ本人だって、夢を叶えて死を選ぶ、と言っていた筈だ。なら、ここで人魚の皆さんと夢を叶えて幸せに生きればいいじゃない、と私はヒレなんてついていない二本の脚で水中を蹴った。
久しぶりの再会に浮かれていたのは私だけだったのだろう。知らない土地でサンジの無事を祈る日々だった、会えない間のサンジを想像しては夢で会えたら……と淡い想いと一緒に眠りにつく日々。だが、目が覚めて隣を見れば冷えたシーツがひとりぼっちの現実を突き付けてくる。現実はいつだって無慈悲だ、今、思えば一緒にいない期間の方が私は間違いなく幸せだった。
サニーで再会した私達は一言も話をしていない、理由はサンジの免疫低下。女と話すだけで大量出血を起こすのだ、ナミやロビンの前で血飛沫を上げて倒れるサンジ。そこに近寄ろうとすれば、珍しくルフィですら私を止めた。サンジを殺す気か、と。チョッパー
の近くに倒れたその金髪に手を伸ばそうとして、私は両手を背中に隠した。
そして、そのまま魚人島に向かえば、サンジはあの有様だ。あちこちで血飛沫を上げて、目をハートにして、手をワキワキさせながら私の前で人魚と戯れる。あれ、私ってサンジの何だっけ、と自問自答をしている隙にサンジは瀕死の重体。この、つまらない嫉妬を飼い慣らす前にサンジはまた手の届かない場所に行こうとする。だから、それが悔しくて誰にも聞かれていないのに言い訳をするように脳内で暴言を吐き散らしているのだ。
「ナマエちゃん」
サンジは結局、死ななかった。私の気持ちを魚人島に置きざりにして、サニーは新たな島に出航する。
「ナマエちゃん、おれ、何かした……?」
過剰発作が治まったサンジは真っ先に私の元に来て、会いたかった、触れたかった、とワケの分からない事を口にする。
「何もしなかった」
何もだ、私を見て血飛沫を上げる事も手を握る事も、会いたかった、と抱き締める事もサンジはしなかった。人魚を見つけては海の中を自由に動き回り、私の代わりに人魚に愛を謳い、愛で身を滅ぼそうとしただけ。
「……サンジのこと考えない夜は無かったわ」
「おれもだよ、今だって君のことばっかり考えてる」
「今は声を引き替えにしてヒレが欲しいって願ってる」
海の悪い魔女に取引を持ち掛けるわ、と私は冗談を口にする。真実八割の冗談だ、あの日からずっと私は人魚になりたい。人魚だったらサンジにチヤホヤされて、優しくしてもらえるかもしれない。会いたかった、と私の成長したバストに顔を埋めて愛を謳うサンジが見れたかもしれない。様々なタラレバを頭の中に並べて、ありもしない妄想をする。
「水中の君は人魚みたいだったよ、海に溶けてしまうんじゃないかって程に可憐でおれは鼻血を出さないように必死だった」
「嘘はいいわ」
冗談もいらない、と突っぱねる私の肩にサンジは顔を埋める。
「人魚がいなくて寂しい……?」
「君と離れていた時はこんなもんじゃなかったよ」
毎日、君の無事を願ってた、とサンジは口にする。
「なら、何故、言ってくれなかったの。まともに今日まで私と喋ろうとしなかったくせに」
「……二年で君の美しさを忘れてた」
「どういう意味?」
「鼻血どころじゃないって話さ、心臓が止まっちまいそうだった。だから、クルー全員に止められてた」
愛に生き、愛で死ぬ、それもまたロマンチックだが君の横であと数十年は生きていたいから、とサンジはプロポーズに似た言葉を私に掛ける。
「夢を叶えて死を選ぶ、じゃなかったの?」
「死を選んでちゃ、本当の夢は叶えられねェ」
「ふふ、オールブルーね」
「それともう一つ」
サンジはそう言って目尻を下げる、そして、片腕で私の腰をグイっと引き寄せると自身の腕の中に閉じ込めた。
「君だよ、おれの夢はナマエちゃん」
どういう意味だとか聞きたいことは山程ある筈なのに、私はつい目を閉じてしまう。
「ナマエちゃん?エッ、これはキスしていいって事かな!?」
私は息をひとつ吐き出して、目を開ける。そこには冷たいシーツはなく、少しだけ賑やかな私の待ち人がいた。私は爪先立ちでサンジの唇に自身の唇を押し当てた。キスで目覚めても、この夢はきっと終わらない。
「泡にならないで良かった」