短編
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あーん、と料理のひとかけが乗せられたスプーンを口の前に差し出される。何度目かの餌付に抵抗する気も起きずに、大人しく口を開く私。ぱくりと口で迎え入れた料理の名前は分からない、サンジの作る料理の名前は専門的で私のような料理がからっきしな女には少しだけ難しい。きっと、ルフィだって肉と米ぐらいしか分かっていないからセーフだろうと自己完結していれば、サンジは私の口から銀色の柄だけになったスプーンを引き抜いた。名前の分からない舌が蕩けそうな料理をもぐもぐと咀嚼していれば、ゆるやかに上下に揺れる私の頬を撫でるサンジ。
「たとえばの話をしようか」
「うん?」
正面に座るサンジはテーブルに肩肘をつくと、スプーンで料理を指す。
「これに毒が入っているとする」
「毒味は専門外よ」
「たとえばの話さ、君には少しだけ警戒心が足りないようだから心配してるって話」
そう言ってサンジは肩を竦める、警戒心が足りないと言われてもサンジの料理を前にして警戒なんてする方が馬鹿だろう。サンジの料理人としてのプライドや覚悟を見ていれば、料理に悪意のある細工をするなんてこと考えられないからだ。
「だって、サンジの料理だし」
「おれが差し出したら君はノータイムで口を開けてるよ、困った事に外食でもね」
「サンジが差し出すって事は安全な食べ物でしょ?」
なら大丈夫、と脳天気に笑う私にサンジはきょとんと固まってしまう。
「私に餌付する物好きなんてサンジくらいだし、まぁ、敵に操られて毒盛る事になっちゃっても」
言葉を一旦切ると、サンジの水仕事でカサついた手を両手でぎゅっと握る。
「サンジが作ってくれるものなら残したくないし、それに同じもの食べるんだからサンジも私と心中だよ。やったね」
心中計画を可笑しそうに話す私はサンジの目から見たら異常者に見えているのだろうか。でも、私は目を細めて不謹慎なネタでサンジを安心させる事しか出来ない。
「……また、君を放っとけなくなった」
「心配で?」
「知らねェ野郎と心中なんてされちゃ困るからだよ」
サンジだって大概だ、一回心中なり何なりすればお互い正常になるのだろうか。いや、きっと無理だろう。人間は愛や恋やくだらない戯れの前ではマトモな考えなんて出来る筈がないのだ。
「サンジが一から作り変えた体なんだから最期まで付き合うのもコックの仕事だよ」
「はは、その理屈だったらレストランのコックは大忙しだな」
「確かに」
三食プラスおやつ、もう体の血肉はサンジの手によって別人級に整えられている。生かすのも殺すのもサンジの優しい魔法の手次第なのだ。サンジは目の前に並ぶ料理をスプーンで掬うと、また一口、私に差し出す。そして、同じスプーンで己にも一口。毒を食らわば、ふたりでひとつ。