短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サンジには秘密がある、それに気付いたのは魚人島を離れて暫く経ってからだ。朝から晩までサンジはサニーの中を忙しく動き回っているが、ふと目を離すと何処かに消えるのだ。消えるというよりか、私から隠れるようにいなくなるのだ。修行の二年間でサンジは女への免疫以外に私に向けていた気持ちまで失ってしまったのだろうか、と料理の仕込みをするサンジの背を睨み付けていれば、気まずそうにサンジが振り向いた。
「……ナマエちゃんの視線がお熱いなァ、って、えっと、おれ何かしました」
「別に」
ぶすっとした顔で素っ気なく答えれば、サンジは特徴的な眉を下げて焦ったように私に近付いてくる。これ以上、余計な事を言って怒らせないようにしているのか、黙ったまま私の周りを犬のようにうろちょろするサンジ。
「おて」
「ハイッ!!!」
つい、手を出せば、サンジは元気な返事と共に手を重ねてきた。それでいいのか、と一瞬、頭を抱えるがサンジのお尻に見えない尻尾が揺れるのを感じて、私は笑みをこぼした。
「サンジ」
「何だい、ナマエちゃん」
椅子に座る私と視線を合わせる為にしゃがみこむとサンジは私の両手を握る、きっと、話しやすい空気を作ってくれているのだろう。
「……私に隠し事があるんじゃない?隠し事っていうか、隠して何かをしてるとか……」
サンジの両手に力が入る、そして眉の下のタレ目が見開かれ、海のような青が飛び出しそうだ。嘘が下手ね、と苦笑いをこぼせば、サンジは挙動不審になりながらも私に視線を向ける。
「……見た?」
「いいえ、全部は見てないわ」
「ど、どこまで?」
サンジがスーツの内ポケットから何かを出す所まで、そう言って私はサンジが羽織っているジャケットの胸元を指差す。
「ここに隠しているでしょ、ずっと」
「……ハイ」
サンジはジャケットの内ポケットに手を入れると、一枚の写真を出してくる。色褪せて皺まで寄ってしまっている写真の中には、いつ撮られたか分からない愛想の欠片も無い私がいた。
「怒らねェで聞いてほしいんだが、この写真に、えっと、その、ちゅーを……君と会えない間、寂しくて、これが御守りだったんだ、だから、二年間の癖で……君の写真で気持ち悪ィ事してごめん」
床に頭を打ち付ける勢いで頭を下げるサンジ、私はサンジの気持ちが失われていない事実から来る歓喜に内心大騒ぎだ。サンジはまだ私を好き、私の写真にキスしちゃうぐらいには好き、と飛び上がりそうな体を落ち着かせるように目の前の金髪をクシャクシャに撫でる。
「エッ、エッ!?ナマエちゃん?!」
「ねぇ、サンジ。ちゅーしよ、本物の私と」
静かなキッチンに響いたサンジの唾を飲み込む音、そんな緊張する事かな、と首を傾げていればサンジの細長い指が唇をなぞった。サンジの三白眼が獲物を射抜くように細められる、犬が狼に変身してしまった、と焦った所でもう遅い。
「柔らけェな」
「コックさん的には美味しそうに見える?」
つい、煽るような一言を発する私はまな板の上の魚がピチピチと跳ねるようなものだろう。
「あァ、レディ。召し上がっても?」
「冷める前にどうぞ」
サンジの唇は思った通り、煙草の味がした。だが、愛という甘い調味料のせいで馬鹿になった舌が苦味を求めて、何度も口付けを強請るのだった。