短編
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年の差と同じくらい、経験の差が出る。一周分の溝は中々埋まりそうになくて私はサンジくんの過去の女達に情けなく中指を立てて、今は私のサンジくんだし、と虚勢を張ることしか出来ない。あんなに格好いいんだから、そりゃモテたんでしょうね、と慣れていない酒をちびちびと呑みながら愚痴る私にウソップさんはお得意の嘘をついた。
「昔は全然だぞ」
「嘘つき」
「ひでぇ言い様だな、おい」
ジト目でウソップさんを睨み付けていれば、反対側に座るナミさんも、サンジくんはあのメロリンで損してんのよ、とウソップさんの肩を持つ。
「メロリン……?」
「未知のビョーキレベルの女好き」
ウソップさんがそう言って苦笑いを浮かべれば、ナミさんも仕方ない人と言いたげな笑みをこぼした。
「ま、ここ数年落ち着いてモテ男になっちまったけどな」
「サンジくん」
最初は十個上のサンジくんをそんな風に呼べなかった、サンジさんと一線引いたような呼び方をする私にサンジくんは意地の悪い笑みでこう言った。サンジくんじゃねェと返事してやんねェ、と。それから、ずっと、サンジくん、サンジくんと呼んでいる私の口は直ぐに彼を呼んでしまう。
「なんだい」
そして、サンジくんはそれに飽きる事なく応えてくれるのだ。やっぱり、モテないのは無理がある。若い頃はそうやって善良な友達を騙しながら、裏でめちゃくちゃ遊んでいたに違いない。
「お熱い視線だなァ」
違います、非難の目です、とも言えずに私はサンジくんのキラキラした碧眼を見つめる。
「キスしてェの?」
「……どうでしょーか?」
「なぁに、クイズ?」
サンジくんは冗談を口にしながら少しおどけると、おれがしてェからしまーす、と無遠慮に私の唇を奪った。小鳥が啄むようなキスから始まり、いつの間にか、やらしい音を立てて、唾液の糸が私達を繋ぐようなキスに変わっていった。
「ん……」
「っ、甘ェな」
首元に腕を回して、サンジくんは濡れたままの私の唇をぺろりと舐めた。
「……キスの練習してくるから待ってて」
「それは聞き捨てならねェな、ナマエちゃん」
君とキス出来る特権はおれだけに有効な筈だろ、とサンジくんは甘えるように私の首筋に軽く歯を立てた。ピリっとした痛みに、つい眉間の皺が寄る。
「だって、百戦錬磨のサンジくんに勝てないもん」
百戦錬磨、とサンジくんは私の言葉をなぞるように口にするとあの日と同じ意地の悪い顔で笑った。
「これからは君がこのキスを独占すんの」
百戦じゃ済まねェよ、とサンジくんはキスを続行させる。煙草のフレーバーがするサンジくんのキスは少し苦くて、とんでもなく甘い。その甘さに溶けてしまう前に煙草を吸う練習でもしようかな、と口に出せば、またこうやって一周分の経験の差で私は止められてしまうのだろう。