短編
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指先でペンをくるくると回しながら、レターセットと向き合うサンジ。これは間違いなく恋文だ、春色のレターセットに綴る自身の言葉。直接ではなく紙にわざわざ想いを綴るなんて、と思う気持ちも理解出来るが愛を伝える手段は何個あっても困らないだろう、とサンジは拙い愛の言葉で行を埋めていく。
だが、手紙なんてまともに書いた経験がないサンジには恋文の正解が分からなかった。以前、小説の中で見かけた愛の言葉を自身の言葉に変換し直しても言葉が急にニセモノのように味気なく見えて、便箋をくしゃりと丸めた。
「あー……向いてねェなァ」
サンジはペンをテーブルに転がすと凝り固まった体を伸ばすように両腕を上げる。お世辞にも上手いとは言えない字をそれなりに並べてみても結果は見ての通りだ、人には得意不得意がある事を痛感する。
愛を口にしろ、と言われればサンジの口は制御が効かなくなったように三日三晩、彼女を口説くだろう。だが、手紙は勝手が違う。
「サンジ?」
そして、このタイミングだ。サンジは壁に掛けられた時計を見て、あぁ、と納得する。自身が便箋を睨みつけている間に、こんな時間になってしまっていた。長い針は先程よりも二周して、日を跨いでしまったようだ。
「まだ、寝ないの?」
彼女はカーディガンを肩に掛けながら、サンジの横に座り込む。そして、サンジの周りに転がった紙を一つ手に取る。クシャクシャに丸まった紙を開こうとすれば、サンジの手がストップを掛ける。
「これは、だーめ」
サンジは誤魔化すように笑うと彼女の頭をくしゃりと撫でて、空いた手で丸めた愛の残骸を自身の後ろに隠すのだった。
納得いきません、と顔に書いてある彼女のご機嫌を取るように騒がしく動く口。彼女を前にすれば口はこんなにも動いて、愛を叫ぶ。
「あ」
彼女はサンジの声に首を傾げる、どうかしたのか、と。サンジは何も分かっていない彼女の右手を掴んで手のひらを指でなぞる。
「何を書いてるか、当てて」
「うん?」
彼女は、コクン、と頷くとサンジの指先を見つめる。
「ナマエちゃんへ」
「お、正解♡」
やっぱり愛の力だね、と話が脱線しそうになるサンジに彼女はくすくすと笑う。サンジはニコニコしながら、また彼女の手のひらに指先を踊らせる。
「きょうも」
「ん」
「……あなたが?」
「っ、くく、合ってるから自信持って大丈夫だよ」
「……すき、です」
「あなたのサンジより、ってね」
ペン先で綴った堅苦しい恋文よりも今たった一つ伝えたいシンプルな想いがある、今日もあなたが好きだ、と便箋を埋められない愛言葉と便箋をはみ出してしまう程に膨らんだ彼女への想いがある。
「これは?」
「君へのラブレター」
サンジは彼女の手に自身の手を絡ませて、手の甲にキスをした。想いが溢れてしまわぬように、しっかりと封をするように。