短編
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水面に映った黄色の球体、空にある筈のまんまるのお月様は今、私の腕の中にいた。潮風に靡く蜜のような黄色を梳くように指を絡ませる、私のお月様、と色を孕んだうっとりとした口調でサンジに語り掛ける私。
「ひょえ」
「ふふ、随分と可愛らしい鳴き声ね」
自身の胸をサンジに押し付けて、うふふ、と場違いに微笑んでいれば、サンジは私に触れないように両手を頭の横に上げて、身動き一つ取らずに私のされるがままになっている。
「レディ、えっと、頼むから、離してくれねェかな?」
「やだ」
バシッとサンジのお願い事を一刀両断する私にサンジは口元を手で覆って、うっ、と情けない呻き声を上げている。
「っ、可愛い……おれには、拒否なんて出来ねェ……!」
「欲望に忠実で結構」
サンジは抜け出す事を諦めたのか、私の顔を覗き込んでチラチラと視線を向けてくる。その表情は普段のデレっと崩れたようなものではなく、この状況の意味を知ろうとしているものだった。
突然、抱き着かれて異性の胸に沈められれば誰だって意味を知りたくなる。それにプラスしてサンジに放った言葉の意味だって、サンジにとっては知らない言語のようなものだろう。
「……私がさっき言った事、覚えてる?」
「月が綺麗ね、って」
「月さえ眠る夜に馬鹿みたいだと思った?」
空から暗い甲板を照らす月は頭上を見上げても何処にも姿を見せない、分厚い雲に覆われて見えなくなってしまったのだろうか。
「そんな事、思う筈がねェ」
サンジなら私の言葉を否定しないと分かっていた。サンジは私が雨だと言って青空を見上げても、きっと、それを頭ごなしに否定したりはしない。
「ワノ国ではね、別の意味があるの」
月が綺麗、と私は先程の台詞を再度、口にする。
「うん?」
「あなたが好きって意味よ」
私の月は一つじゃない、と腕の中にいるお月様に笑い掛ければ、その黄色に隠れた白肌がボンッと真っ赤に染まった。首まで真っ赤にしたサンジが面白くて、くすくすと肩を揺らす私。
「ふふ、ストロベリームーンみたい」
サンジは勢い良く私の腕から逃げ出すと、もつれそうになっている足を上手く動かして数歩後ろに下がる。先程までお互いの熱が感じられるくらいに近くにいたからか、数歩離れた距離が寂しくて仕方ない。見えない拒絶のようだ、と足を動かせずにいるとサンジは乙女のような顔つきで両手の人差し指と人差し指をくっつけて落ち着き無く私を見ている。
「……すき、って本当?」
「冗談」
冗談でも嘘でもない、ただ、ここにきて、結果を聞くのが怖くなったのだ。冗談とはぐらかして逃げようとする愚かな私は自身の靴の先を眺める事しか出来ない。
サンジはコツコツと革靴を鳴らして、私の怖がった数歩の距離を一気に詰めると私の体を自身の方に引き寄せた。
「おれに告白の機会を譲ってくれて感謝するよ、レディ。こういうのは男から言うべきだ」
おれは本気で君を愛してるよ、死んでもいいくらいに、そう言ってサンジは私を愛おしげに見つめる。
「……知ってるじゃない」
「レディを口説くには最適の口説き文句だからね、でも、レディ全員に命を張れる程、おれはお人好しじゃねェからさ、これを伝えるのは、君だけ」
「私も冗談なんかじゃないわ」
蜜のように甘いお月様が素直じゃない私を照らした、まどろっこしい告白はどうやら実ったようだ。