短編
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私が手を繋ぎたいなぁと思った時にはもうサンジの大きな手が私の手を握っている。どう?可愛いでしょ?と聞く前にサンジの蜂蜜のような甘さを含んだ声が大袈裟な程に可愛いを伝えてくれる、これが欲しい、これが食べたい、そんな望みを全部叶えてくれるスパダリ中のスパダリ。私はそんなサンジの特大の愛の上で胡座をかいていたのだ、どんな時でもサンジは私を優先してくれると勘違いしていた。
「ごめん。今度、埋め合わせするから!」
サンジは自身の顔の前で手をパチンと合わせ、何も言わない私に何度も申し訳なさそうな顔をして謝った。サンジは何も悪くない、それに、クルーは私一人じゃない、サンジがいなくちゃサニーの中はきっとめちゃくちゃだ。なのに、未だに何も言えずに拗ねている私はどうしようもなくガキで自分自身が嫌になる。
私は付き合ってからサンジの意見を聞いた事があっただろうか、いつでもサンジから与えられる優しさに甘えてサンジの本当にしたいこと、してほしいこと、とマトモに向き合って来ていない。そんな事実に今更、愕然とし、それ以上に絶望した。いつの間にかサンジが私に合わせてくれるのが当たり前になっていた、恋人の我儘を叶えるのが男だ、と笑ったサンジの言葉を馬鹿正直に受け取ってしまっていた。自身の失態に気付いた今では愛されていた自信なんて消え去っていた、愛されていたのではなく私がサンジをそうさせていた。ポロポロと剥がれていった自信の下にあるのは後悔と絶望、それだけだ。
サンジと距離を置こう、と決めてから私はサニーの中を隠れ回っている。ほとんどは女部屋だが、他は誰の目にも付かないように静かなひっそりとした場所でボーッと海を見つめたり、武器の整備をしたり、サンジの手を煩わせないように静かに過ごしている。
「ナマエちゃん、みっけ」
「……どうして、見つけちゃうかなぁ」
私の情けない呟きにサンジは不機嫌丸出しの声で、そんなにおれがいたら迷惑なの、と返す。サンジのそんな声を聞いた事がなかった私は泣きそうになるのを我慢しながら下唇を噛む。しばらく沈黙が続き、サンジは私の横に腰を下ろした。
「君の迷惑になりたいわけじゃねェんだ、ただ、好きだから心配はさせてくれねェかな?」
「サンジ」
「ん?」
「好きでごめんなさい」
気がつけば、サンジの腕の中にいた。久しぶりの煙草の匂いが、私の鼻をツンと刺激した。泣いている事がバレたくなくて、煙草臭い、と思ってもいない文句を口にすれば、サンジは柔らかな声でまた私を許してくれた。
サンジは私の背中をぽんぽんと優しく撫でながら、ここ最近の私の不可解な行動の説明を口も挟まず、うんうん、と最後まで聞いてくれた。
「不甲斐ない彼女だな、って」
「思っちゃったのかい?」
思っちゃいました、と素直に頷いた私の頭を普段よりも力強い手でぐしゃぐしゃに撫でるサンジ。わ、と声を出して脳を揺さぶる手を押し退けようとしてもサンジはやめようとはしなかった。
「ばか、ばーか」
「あなた、レディに馬鹿なんて言えるのね」
私の的外れな言葉にサンジは、そうじゃねェ、と私の頬を優しく摘む。
「おれは君を甘やかしたいの、もう、これはおれの趣味、生き甲斐。だから、おれから君を取り上げねェで」
「……遠慮しなくていいのよ?」
「君の我儘の内容さ」
「うん?」
「おれとキスしてェとか、おれの飯が食いたいとか、おれが君にしてやりたい事ばっかなんだよなァ。だから、以心伝心っていうか、通じ合ってるみてェで、おれは幸せなんですけど?」
今しがた打ち明けた不安を吹き飛ばすようにサンジは私に笑い掛ける。私は目の前のサンジに何て返していいか分からずにモゴモゴと口を動かす事しか出来ない。
「我儘も甘えたも遠慮なくどーぞ、プリンセス」
「……私のこと、好き過ぎじゃない?」
「ちゃあんと理解してくれたみてェで良かった」
サンジは私の頭の後ろに手を回して、よく出来ました、のキスを顔中に降らす。
「っ、ふふ、くすぐったいわ」
「まだ足りねェって」
何日、避けられたと思ってるんだい、と不貞腐れたような顔をするサンジ。
「たった三日じゃない」
「あーー聞こえねェ」
サンジは自身の耳を押さえて、あーー、と声を上げる。そして、私の腰に長い足を巻き付けて、今日のおれは我儘だから覚悟して、と私の逃げ道を塞ぐのだった。