短編
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サンジの頭の中には記念日が詰まっている、私とはじめて手を繋いだ記念日、はじめて私とキスをした記念日、はじめて体を重ねた記念日、付き合った記念日、そして、合間、合間に挟み込まれた些細な記念日。特別、騒いだりはしないが毎日が記念日だと言ってサンジは嬉しそうにしている。
「今日は?」
「君に初恋を奪われた記念日」
煙草をふかしながら、サンジは空いた手で私の頭をくしゃりと撫でて自身の方に引き寄せた。
「恋多き男にしては遅い初恋ね」
「あ、信じてねェって顔」
その視線から逃げるようにサンジのスーツのジャケットの内側に潜り込む私、遠くに逃げればいいのに逃げるのはその相手の懐だなんて笑ってしまう。サンジの腕がジャケットごと、私を捕らえる。
「クソ可愛い」
私のせいで語彙が消失してしまったサンジの言葉にくすくすと笑いながら、私はある事に気付く。
「私、サンジみたいに記憶力良くないから記念日なんてロクに覚えていられないんだけど」
サンジに可愛いって言われた日はちゃんと覚えてるよ、とサンジを見上げる。身長差のせいで自然と上目遣いになってしまったが、そのせいで、またサンジの綺麗な顔がグッと何かを堪えるようにおかしな顔になった。
「……ずりィ」
「だって、毎日言われるんだもの。ふふ、そのお陰で自己肯定感は爆上がりです」
「っ、くく、何で敬語なの。可愛いなァ、もう」
あ、また言った、とサンジを指差せば、だって、毎秒、かわいい、と恥ずかしげも無くサンジは答える。
「……いつか、可愛くないなぁって思う日が来ても言ってくれる?」
サンジの瞳はいつだって正直だ、嘘を付けない。口で可愛いを伝える前に瞳が先走って特大の好きを伝えてくる。好き、愛しい、可愛い、全てを伝えてしまう碧、その碧い瞳が曇る日を想像したら少しだけ胸が痛んだ。
「悩ましげな君も素敵だが、おれには想像出来ねェんだ。君が可愛くねェ日が」
サンジのジャケットに顔を埋めれば、香水と煙草の香りが混じって、より近くにサンジの存在を感じる。馬鹿だなぁ、と照れ隠しに毒づけば、サンジは私の耳元に口を寄せて、君の前では特にね、と笑った。
心臓が何個あっても足りない、ぎゅって潰れた心臓が口から出そうだ。
「……今日はサンジに殺されそうになった日」
私の物騒な発言にサンジは目を見開いて驚く。だが、すぐに答えを理解したのか、私の頬に手を添えて、何度もリップ音を鳴らしながらそこら中にキスの雨を降らせる。
「おれの愛に潰れちゃいそうな君が可愛い」
悪趣味、と押し返した手はサンジの大きな手に引き寄せられて逃げ道を失う。
「初恋は実らねェってのは嘘だな」
だって、おれの初恋は此処にいるから、そう言ってサンジは私を見つめた。その瞳は相変わらず私の心臓を潰すには十分の威力があった。