短編
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サンジは頬杖をつくと、心底面白くありません、という表情で彼女の腕の中を睨み付ける。そうすれば自身の顔をしたぬいぐるみと目が合い、また、気分が落ち込む。
「ハァ……」
煙草の煙が染みたのか、それとも寂しいからだろうか。つい、涙が目の端に浮かんで、滲む。
「ぬいぐるみの分際で……ッ……このクソ野郎」
サンジと同じ金色の髪にデフォルメされたハートになった片目、口にはご丁寧に煙草まである。あれはサンジをモデルにしているが、サンジ自身ではない。最初はレディに可愛がられちゃうかなァ、と浮かれていたサンジだったが、今では海賊の応援グッズなんぞクソ食らえと海にぬいぐるみを投げ捨ててしまいたい程に自身と同じ顔をしたぬいぐるみが憎くて堪らない。ぬいぐるみじゃなくておれを見て、と遠くから熱視線を浴びさせても彼女は知らん顔だ。
「……本物よりもぬいぐるみの方が可愛いですか、そうですか」
聞こえない程度に不満と煙を吐き出すサンジ、モヤモヤと曇る胸中とは裏腹に空はナミの予想通りに快晴だった。
曇った胸中は突然、雨となって表に出てくる。サンジは彼女の腕からぬいぐるみを抜き取ると、取られないように自身の背中に隠す。
「サンジくん?」
「……おれ、本人じゃ駄目?ぬいぐるみみてェにわざわざナマエちゃんに運んでもらう必要もねェし、ナマエちゃんのお話相手にもなれるし寂しい夜は添い寝だって……いや、これはナミさんに土下座して頼みこまねェと厳しいが……おれは、君と一緒にいれる権利をぬいぐるみなんかに奪われたくねェ」
だから、おれにしてよ、とサンジは口をへの字にして泣きそうなのを我慢しながら彼女の指を控えめに握る。
「いつもサンジくんがお世話してくれるから、私もしたくなったの。でも、サンジくんは何でも自分でやっちゃうから少しだけ寂しかった」
「おれは君がいねェと生きていけねェ、ナマエちゃんの顔を見なきゃ朝は始まらねェし、ナマエちゃんのおやすみがねェと寝れなくなっちまった、だからさ、呆れねェでお世話して……?」
サンジは少しだけ首を傾げると彼女の顔を覗き込み、ふにゃりと破顔した。呆れられても、情けなくても、彼女からの愛が欲しいのだ。