短編
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直近で下りた島は結婚式が盛んだった、この世の全てのカップルの背中を押してくれるような島。男女関係なく、好いた者同士なら誰でも幸せになる権利があると謳う島に私は少しだけ影響されてしまったようだ。
洗濯物を取り込むサンジの背後に回り込み、カゴいっぱいに積まれたシーツを一枚だけ拝借する。そして、そのシーツをふわりと自身の頭にかぶせて、サンジの背中をツンツンと突く。
「ん、なんだい?ナマエちゃん」
「ふふ、私ってバレてたのね」
そう言って恥ずかしそうに頬を掻く私の姿を視界に入れた途端、黙り込んでしまうサンジ。シーツをかぶって遊んでいる私に呆れてしまったのだろうか、それとも、このシーツの意味に気付いてしまったか。
「……花嫁さんみてェ」
どうやら、正解は後者のようだ。サンジはそう口にすると滝のように言葉を続けた。綺麗から始まり、君の相手はおれだと私にアピールし、最後には素晴らしい想像力と感受性で本番を想像して泣き出した。情緒不安定か、とツッコむ私にサンジはえぐえぐと鼻を鳴らしながら、だって、君と結婚したい、と鼻水を付けないように気を付けながら抱き着いてくる。
「サンジ、本番もずっと泣いてそう」
「控え室で既に無理」
「あはは、自分で言わないの」
だってよォ、と情けない声を上げるサンジの中には当たり前に私がいた。結婚=私とするもの、だと思っているサンジに私は少しだけ泣きそうになった。あー、この人が好きだ、と実感する度に涙の代わりに自身の中だけでポイントを貯めていくのだ。チャリン、チャリンと貯金されていくのはサンジへの愛だ。
「サンジが泣かないように予行練習なんて、どう?」
嘘、本当は私が泣きそうだからだ。海賊なんて褒められた職種じゃない、みんなみたいに目標も夢もない。流されて海賊になって、流されてルフィの仲間になった私の人生は流されてばかりだ。だけど、サンジを好きになったのもサンジと結婚したいのも、それだけは自身の意志であり夢だ。夢はサンジのお嫁さん、なんて言えるような性格はしてないが思うのは自由だ、だって、海賊は自由だから。
「健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
前の島で聞いた誓いの言葉だ。美しい言葉だな、とあの時は思ったが今は少しだけ相手を縛り付けるような重さがあるな、と他人事のように思う。
「神じゃなくて君に誓うよ」
サンジは私のかぶっているシーツをグイっと自身の方に引っ張ると隠れるようにシーツの中で誓いのキスをした、啄むように何度も唇を重ねながら目の前の私に永遠を誓うサンジ。
「……これは気まぐれなんかじゃねェんだけどさ」
「なぁに?」
「本当に誓ってもいい?」
サンジは蕩けてしまいそうな瞳で私を見ると、にっこりと甘い笑みをこぼす。
「君がいる未来がね、すげェ愛しく思えちゃった」
「……夢、叶えてくれる?」
「夢かい?」
「サンジのお嫁さん」
私の中のサンジ好きポイントがとんでもない勢いで貯まり続けて、とんでもない勢いで口から飛び出してしまった。もう撤回も隠す事も出来なくなった私はシーツに包まって、サンジからの返事を待つ。一秒、二秒、数秒が数分のように感じられて胃が痛い。
「君の夢はおれの夢だよ、ナマエちゃん」
君が健やかに生きていけるように、病める時は君の傍で君の盾になるよ。君を苦労させたくはねェ、でも、もし、そんな時が来ても、おれの手を握っててくれねェかな……?君がいたら、おれはまた腐らずに立てるからさ、だから、隣でおれを見てて。ナマエちゃん
そう言ってサンジはしゃがみこんでしまった私の目線に合わせるように跪いた、その姿は私の素晴らしい想像力で描いた幻想ではない。
「人生で幸せになるには沢山の方法がある、でも、おれにどうしても必要なのは君なんだ」
夢は夢では終わらない、私はサンジの首に腕を回すと言葉にならない分、何度も何度も頷いて見せる。そんな私にサンジは安心したように笑った。