短編
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「おめェ、あれに何も思わねェのかよ」
「全然」
嘘、本当はサンジとナミの間に割って入って暴言の一言くらい言ってやりたい。だけど、小心者の私にはそんな勇気は無くて出来るだけ視界に二人を入れないようにするのが精一杯だ。そんな私の様子に気付いてくれたウソップが二人の様子が見えないように上手く壁になってくれている。
「……あんまり、無理すんなよ」
意外とゴツゴツしたウソップの手が私の頭を撫でる、その心地良さに目を閉じて、もっと、もっと、と甘えてしまう。だが、サンジがそんな光景に気付かない筈がない。サンジは私達の間に割って入ってウソップの特徴的な鼻を掴むと険しい顔をしてメンチをきる。いつもだったらサンジの暴走を止めるのは私だ、勘違いだよ、離してあげようよ、と。
「……私、サンジじゃなくてウソップを好きになれば良かった」
ウソップにはカヤちゃんがいるのに、ただの腹いせの為に名前を出す私は何て酷いのだろう。私の言葉を聞いたサンジは力なく床に崩れると、冗談だよね、と下手な笑みを作る。
「サンジはナミとお好きにどーぞ」
私はそう言ってニコリと笑うとサンジとお揃いではめていた指輪を指から外して床に落とした。これでサンジも自由に恋愛が出来るわね、と。
「ナマエちゃん、君は勘違いしてるよ」
「私が本命じゃない事はちゃんと理解してるつもりよ?あれだけ見せられたら、馬鹿でも分かるわ」
今まで飲み込んできた、ずっと、ずっと、感じていた不安。それは時に濁流のように汚い本音を溢れ出す。ストップを掛けようとするウソップに小さく謝ると、私は逃げるようにその場から立ち去った。これ以上、あそこにいたらサンジにナミ、それに優しいウソップにも酷いことを言ってしまいそうだから。
あの後、二人にはきちんと謝った。私達の問題に巻き込んでごめん、と謝れば二人は気にしてないと言って私の背中をバシバシと叩く。ナミは遠慮なく私の背中を叩くと、ちゃんと話し合いなさい、と困った妹を見るような表情で私を見た。
「それにサンジくんの愛はナメない方がいいわよ」
「……愛」
「私じゃなくてアンタに向けてるじゃない、いつも、いつも。鬱陶しいぐらいに」
ナミの言葉を信じ切る事が出来ない私は曖昧な笑みを浮かべた、ナミは私のそんな気持ちに気付いているが口には出さず、肩を優しく抱いてくれた。
「きっと大丈夫よ」
喧嘩はお互いが生きているから出来るんだよ、と昨日の私に言いたくなった。お互いがお互いを庇って死にかけてるなんてきっと馬鹿がする事だ、左側に寝転ぶサンジの腹からは止まずに血が流れているし、私の腹からも血は止めどなく流れている。
「……ナマエ、ちゃん、無事かい?」
「サンジ、よりは」
他人が見たら同じ位の重症だ、だけど、今の私にとって自身の傷よりもサンジの傷の方が痛そうなのだ。早く、チョッパーを探さなきゃ、と立ち上がろうとしても死にかけの身体はまともに立ち上がれないどころか、身動きすら取れない
「……なァ、ナマエちゃん、指輪はめて」
サンジは無理に身体を動かして、私の方を向く。冷えた手で私の薬指に指輪をはめると、サンジは私の手の上に自身の手を重ねる。
「愛に終わりはねェんだって」
サンジの碧い瞳の奥は穏やかで眠る前のひと時のお喋りのようだ、視線が重なるとサンジは柔らかな微笑みを浮かべる。
「おれの愛の居場所はね、君だけだ」
いつも、君に向かってる、と口にするサンジ。一方的に八つ当たりをしたあの日からサンジの顔をまともに見ていない、いや、その前からきっと私は目を逸らしていたのだ。
「……勿体無い事したなぁ」
「ん?」
「サンジがそんな顔で私を見てるって知らなかった」
目は口ほどに物を言う、愛情を疑う暇があったなら逃げずに向き合うべきだった。
私達は何だかんだ死ななかった、私が後悔で死にそうになっているタイミングで麦わらの名医であるチョッパーが吹っ飛んで来て、血だらけの私達をどうにか治療した。サンジは私よりも一歩先に回復したらしく、普段通りにサニーを動き回っている。そして、空いた時間は常に私の横に座って、今までの時間を取り戻すように私に構うのだ。
「これは?」
「ウソップが改造してくれた武器」
サンジはウソップの名前が出た途端に不機嫌な表情をする、面白くありません、と書いてある顔で唇を可愛らしく尖らす。アヒルみたい、そう言って前に突き出した唇をふにふにと指で突いていればサンジは私の指の腹にちゅっちゅと口付けを落とす。
「これは長っ鼻にも出来ねェな」
私は未だに少しだけ痛む上半身を捻ると、サンジのネクタイを引っ張り自身の方に引き寄せる。
「この続きはナミにも無理だわ」
瞳の奥の本音に触れて、愛情と向き合う二人。お互いの額をコツンと合わせて、今まで言えなかった愛してるを伝える。後悔しねェように、サンジの言葉に続くように私は今日も生きていく。