短編
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夫婦には必要以上に言葉はいらないらしい、あれを取ってくれるかいと言えば、これかしらと返ってくる。その、あれこれの二文字をお互いに理解出来る程には私達ふたりは同じ時間を過ごして来た。
「あれ、して」
「どれだい?」
そう言って見当もつかないというような表情でしらばっくれるサンジ、私を膝に乗せた状態で、うーん、と顎に手を置いている。私が食べたい物も欲しい物もタイミングよく分かるくせに、サンジは毎回こうやってキスだけは私の口から言わせようとする。
「うーー」
口を尖らせる私のきゅっと前に出た唇をふにふにと指で弄びながら、サンジは愛おしげに私を見る。
「唸らない、唸らない」
「だって、あなた分かってる顔してるもの」
はて、とサンジは首を傾げるが、その顔はどうやっても確信犯のそれだった。弧を描く口元に楽しげな色を描く蒼、居心地が悪いその視線から逃げようとすれば腹に回された腕が私の逃亡を邪魔する。
「ナマエちゃん、ご要望はお口で、ね?」
「意地が悪いんだから、そういう所は昔から一緒ね」
「君だって変わらないよ」
キスしてって言えない所とかね、そう言ってサンジは私の髪の毛を耳に掛けて、耳朶に唇を寄せる。ちゅっ、と可愛らしい音を立てながらサンジの唇は頬に移動し、鼻先に触れる。
「焦らさないで」
サンジの顎を指でするりと撫でて、唇に誘導しようとする私。サンジはまた意地の悪い顔をして、言わなきゃ分からないよ、と知らないフリを続ける。
「……そっちじゃなくて、こっちよ」
堪え性のない私はそう言ってサンジのジャケットの襟を掴むと、唇に自身の唇を押し付けた。途中から照れが勝ってしまった私は唇を素早く離して、ぷいっと顔を横に向ける。サンジの長い指が私の頬に触れて、気付いた時には体ごとサンジの方を向かされて、また逃げ道を失う。
「それだけじゃ、足りねェだろ」
お互いに、そう言ってサンジは私の唇に噛み付くようなキスをする。振り落とされないように舌を絡め合いながら覗いたサンジの顔は夫婦になっても恋人同士のあの頃と何も変わらなかった。