短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
安定しない精神状態は余計に気持ちを落ち込ませ、負のループを呼び起こす。毎月の憂鬱、女性ならではの苦しみ。どう考えても苦行としか思えない身体の痛みに私は重い溜息を吐くと、芋虫のように自身の膝を抱えてタオルを引いたベッドの上で小さく唸り声をあげる。痛い、寒い、お腹が痛い、気持ち悪い、眠い、怠い、血の匂いに酔いそうだ、と頭の中を掛け巡る不調の数々。死ぬかも、と意識が飛びそうになる度に先程の失態を思い出す。心配してくれたサンジの優しさを無下にして、半ば八つ当たりのような状態で逃げて来てしまった事を謝ってから死にたい。でも、今の私には他者を気遣う余裕は残念ながら持ち合わせていない。きっと、また八つ当たりをしてサンジを傷付けるのがオチだ。体も心も言う事を聞かない、持ち主に少しでも寄り添ってくれたらいいのに、と吐き捨てた文句は無意識に流れていく涙と一緒にシーツに零れ落ちた。
水溜りに寝そべっているようだ、右頬は自身の涙でビチャビチャだし、髪だってグシャグシャだ。腫れ上がった瞼を閉じて、枕元の住人になっているサンジのぬいぐるみを抱き締めてこのまま眠ってしまいたい。起きているとロクな事を考えないから、このまま夢の中でサンジに謝って、サンジと恋人らしい事をしたい。
「……サンジ、っ、サンジ」
制御が効かなくなった口から囈言のように出る恋人の名前、この部屋からサンジを追い出したのは私なのに制御の効かなくなった心が求めたのはやっぱりサンジただ一人だった。
「サンジ」
「なぁに、レディ」
突然のサンジの声に私は肩をピクリと動かして、怠い身体を気力だけで持ち上げて後ろを振り返る。そこには扉に寄り掛かるサンジがいた、私はボロボロと顔面を涙で汚しながらサンジに手を伸ばす。
ベッドに近付いてきたサンジは私の汚い泣き顔に両手を添えて、君がひとりぼっちの選択を取らなくて良かった、と柔らかな笑みを浮かべる。
「……いま、余裕ないから、またひどいこと言っちゃうかも」
「どんな?」
「世界中の罵詈雑言を集めました、みたいな」
サンジは笑った、それはふざけて笑っているのではなく、優しい笑い方だった。
「そっか」
理解を持った笑い方、サンジの持つ優しさが胸にジンと来て私は許されたような気持ちになった。もう一度、口にしようとしていた謝罪の代わりにありがとうと礼を言えば、サンジは私の額に口付けて、上出来だ、と言った。
サンジは私に毛布を巻き付けると後ろから抱き締めるような形で二人でベッドに寝転んだ、私の腕にはぬいぐるみのサンジ、後ろには本物のサンジ、サンジサンドだ。
「おれとそいつの位置を交換したいのは山々なんだが、今日は我慢するよ」
「……サンジに後ろからぎゅっとされると落ち着く」
そう言うと痛くない程度に腕の力が少しだけ強まった、サンジの手は先程から的確に私が痛いと思っている箇所を探し出しては、しんどい、と思ったタイミングで優しく撫でてくれる。
「魔法使いみたいだね、私の痛みが分かるみたい」
「おれは女の子になった経験がねェからさ、君の痛みを全部は理解してやれねェ。不甲斐ねェったらありゃしねェよ、だが、こうやって気休めでも出来る事があるならやらねェ選択肢はねェんだ」
「う〜〜〜好きになっちゃう」
生理中の女は弱いんだぞ、とサンジの腕をペシペシと叩いていればサンジの手が私の乱暴な手をぎゅっと握った。
「それ以上、メロメロになっちゃって大丈夫かい?」
鼓膜を揺らす甘い声に指の先をぎゅっと内側に丸め込む、ずるい、やだ、と内心荒ぶっていれば、サンジは私の握ったままの手を親指ですりすりと撫でる。
「サンジへのドキドキで痛みが吹き飛んで行けばいいのに……」
「っ、くく、無理そうかい?」
「無理みたい」
軽口を叩ける程に不調は少しずつ無くなってきてるが眠気は別だ、先程から瞼が重たくて仕方ない。チョッパーから貰った薬の影響もあるのだろう。
「無理しねェで寝ちまっていいからね」
「……ん、ちょっと眠いかも」
「ふふ、声が寝ちまいそうだ」
サンジの声が子守唄のように私の眠気を誘う、ふわふわと意識が落ちていく瞬間にサンジは一つの約束をくれる。傍にいるから安心しておやすみ、と。