短編
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「ナミになりたい」
戦場の騒音にかき消された不謹慎な私の独り言は二人の耳には入らない。サンジもナミも敵に追われ、きっとそれどころではない。女性らしいナミの身体を抱えて、敵からの攻撃を受けるサンジ。いつもサンジが命を張る瞬間に一緒にいるのは恋人である私ではなく、仲間であるナミだ。
「……ナミの位置が私だったら、助けたのかしら」
この場で醜い嫉妬心に駆れる私は場違いだ、二人に手を貸す事もせずにバレないようにその場を逃げ出した。
ナミは私とは正反対だ、愛嬌があって自身の正義がちゃんと存在していて筋が一本通ってるような女の子。レディに対して崇拝に近い感情を向けるサンジにしたら、たまらなくイイ女だろう。バラティエに唯一いた同世代の女と比べたら当たり前だ、きっと、比較対象にすらならない。
「着いて来い、って言ったのはサンジのくせに」
海に出る時にバラティエに置いていけば良かったのに、お前はもういらない、と恋人の座から突き落とせば良かったのにやっぱりサンジは詰めが甘い。
宴の最中、サンジとは一言も喋っていない。サニーに戻って来てからもサンジとの関係は変わらないが、二人の間には壁が何重にも重なっているかのように心の距離が出来ていた。だが、そういう時に限って嫌な事は重なるのだ。相次ぐ戦闘でレディの盾になり、矢となり、そして極めつけはナミとの急接近。この時点で私は随分、参っていた。黄色とオレンジが並んでいる光景を見るだけで泣いてしまいそうになるのだ、自身の地味な色彩の髪を雑に掴む私は惨めでサンジの隣には相応しくない。
日に日に距離を取っていく私に痺れを切らしたサンジが私を壁に押し付ける、どういうつもりだ、とらしくない顔をしながら私を睨みつけるサンジ。
「何が」
「何を拗ねてるんだか知らねェが、その態度は無ェんじゃねェの?」
「……サンジにはきっと分からない」
そう言ってサンジの腕から逃げ出そうとすれば、サンジは先程よりも強い力で私の身体を引き寄せた。そして、私の肩に頭を埋めるとぐりぐりと力任せに擦り寄ってくる。金髪が首に掛かって、少しだけむず痒い。
「……お前はいつもそうだ、ジジイの所にいた時からサンジには分からない、サンジには関係無いって突き放して、おれなんて必要ねェみたいな顔でいつも先に行っちまう。なのに、追い付くといつも一人で泣きそうな顔で突っ立ってる、お前は頼るのが下手だから」
サンジは顔を上げると眉をハの字にして私の顔を見つめる、私は昔からこの顔に弱いのだ。この顔をされると言いたくない弱音も全部、口に出してしまうから。
「私はナミみたいに可愛くない」
「ナミさんとは系統が違ェだろ、お前は可愛い」
「……いいから、最後まで聞いて」
溜まっていた不安や不満を洗いざらし吐く、途中で我慢出来なくなり、らしくもない涙まで出てくる始末だ。サンジだってナミだって悪くない、悪いのは嫉妬に狂ってサンジに当たり散らしてる私だけだ。
「ナミの為に死ねるなら、私の為にも死んでよ」
「はは、物騒な殺し文句だ」
「冗談じゃないわ、本気よ」
サンジはクスクスと嬉しそうに笑うと、なら、その時は一緒に死んでくれ、と私に言った。
「お前とは一緒に死にてェんだ」
「ば、馬鹿じゃないの」
「馬鹿で結構」
一週間ぶりのキスは以前よりも少しだけ苦くて笑ってしまった、あなたも寂しかったの、サンジ、と問い掛ける私にサンジはキスの合間に、こう答えた。
「うさぎだったら、死んでたかもな」