短編
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お人好し集団の自己犠牲枠、特にレディに対しては味方も敵も関係無いらしい。レディの頭上に降ってきた無数の矢を華麗な足技で蹴飛ばしたり、ナミを助け出す為に背中にナイフを受けたりする度に私は怖くなる。自分の命をひょいっと投げ出して庇われるのはとても怖い、その庇われたのが私だったら?丈夫なサンジでも急所を刺されたら?合流した時にサンジだけ息をしていなかったら?戦闘の度に私はサンジのシャツを掴んで、行かないで、と止めてしまいそうになる。
馬鹿な私には解決策なんて浮かぶ筈もなく、ナミやロビンや知らないレディへの攻撃の矢先を自身の方に向ける事しか出来ない。サンジの代わりに私が守るんだ、と死なない程度に動き回っては危ない場面に飛び出す私にサンジが気付かないわけもなく、サニーに戻った途端、どういうつもりだ、と壁に押し付けられる。
「あら、そういうのはサンジのキャラじゃないわよ」
「ナマエちゃん、ふざけねェで」
「大真面目よ」
私は腕を振り払うと、サンジの呼び掛けに返事もせずに女部屋に逃げ込むと、何か言いたげなナミ達からの視線も無視してベッドに潜り込む。
サンジとはあれから話をしていない、サンジは私とコミュニケーションを取ろうとしているが、私が一方的に避けてしまっている。そして、私の戦い方も相変わらずだ、攻撃の矢先を自身に向けて、危ない場面に飛び出しては毎回ギリギリの戦闘を繰り返す。いつのまにか私は自身の力を過信していたらしい、気付いた時には敵の武器が目の前まで迫っていた。あ、死ぬかも、と思った瞬間に私の体は暖かい何かに包まれていた。
「大丈夫かい?ナマエちゃん」
目を開けたら、そこにはサンジがいた。そして、サンジの左肩からは大量の血が流れ、シャツに血だまりを作っている。私の服に血が飛んでいる事に気付いたサンジは申し訳なさそうに笑って、君の可愛らしいワンピースを汚してすまねェ、と謝罪をする。
「……っ、サンジ、肩が!」
「千切れてねェから大丈夫だよ、ただの掠り傷さ」
サンジは動揺する私を安全な場所に下ろすと、すぐに終わるから待っててね、と私の頭を撫でて一人で敵に向かっていく。馬鹿な私は振り回すだけ、振り回してサンジに怪我をさせた、そして結局、あの背中を見ている事しか出来ない。
「……もう、しないで」
守らなくていい、と泣きじゃくる私の頭を自身の胸に引き寄せるサンジ。スーツの下には私のせいで出来た傷がある、私の名前を出さずにサンジは自身のヘマとしてチョッパーに申告し、自身の失敗として処理をした。
「おれの自己満さ、君が痛ェと思うもの全部蹴り飛ばしてェと思っちまうんだ、今だって君をそんな顔にしちまってる原因のおれをオロしたくて仕方ねェ、君には笑顔が似合うのに、これじゃ、失敗だ」
「その優しさが怖いの……っ、いつか、誰かの盾になって死ぬんじゃないか、って……」
「最近の君もそうだったよ」
いや、それはおれのせいか、とサンジは私の両頬に手を添えて額同士をコツンと合わせる。
「……サンジは私がナミを庇ってる時、痛かった?」
「痛ェなんてもんじゃねェ、胸が張り裂けそうだったよ」
庇われる度、庇う場面を見る度に大怪我をした時のように心が痛むのだ、怪我の度合いは違っても、心を蝕むような痛みはきっと一緒だ。私は目に水の膜をまとわせたまま、サンジの瞳をじっと見つめる。
「庇う事は悪い事じゃない、だけど、サンジを身代わりにして助かりたくない。自己犠牲は他人に痛みを押し付ける事よ」
私はずっと痛かったんだよ、サンジ、そう言って頬を濡らす私にサンジは静かに口を開いた。
「……おれの優先順位はナマエちゃん、レディ、野郎、そして、おれだ。これを変えるつもりはねェ、ただ、おれだって簡単にくたばる気はねェさ」
頬に、ぽとり、ぽとりとこぼれる涙の滴をサンジは唇で掬う。
「レディの涙を落としちゃ勿体無ェ」
「……ばか」
普段は私にノーの一言も言えないくせに、こういう時ばかり自身の意見を曲げようとはしないサンジ。
「でも、君が痛がるなら少しだけ控えるよ」
「そこは、もうしないじゃないの……」
「レディが危ない目にあってたら、この身体は勝手に動いちまうように出来てんだ。だから、絶対とは言い切れねェ」
サンジは私の尖らした唇にちゅっと可愛らしい音を立ててキスをした。
「……いきなり、なに」
「君に帰ってこれるように、マーキング」
「帰ってこなかったら、ゾロと浮気しちゃうから」
サンジは鼓膜を突き破るような大声で、地獄からでも天国からでも死んでも帰還します、と私に宣言するのだった。