短編
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我ながら悪趣味だとは思う、だって、今からサンジを絶望に突き落とすのだから。別れよう、と言ったらサンジはどんな顔をするのか、ただの興味から始まった趣味の悪いドッキリだ。
「サンジ」
「なぁに、ナマエちゃん?」
全てを赦してくれそうな碧が私の顔を覗き込む、私はその瞳をしっかりと見つめながら一つの嘘を口にする。
「別れましょ」
まんまるの月が浮かんだ海にサンジの煙草が吸い込まれるように落ちていった、火をつけたばかりなのに勿体無いな、と他人事のように海に視線を落とす。
サンジなら土下座をしてでも自身との恋人解消を阻止すると思っていた私はすぐに裏切られる事になる。
「……おれが不甲斐ねェばっかりに」
「いいえ、私が悪いのよ」
そう言って切なげな表情でサンジから視線を逸らせば、サンジは顔を涙で汚しながらも私を責める事はしなかった。
「それは、ちげェよ。だって、君と付き合ってから、おれはずっと幸せだった。馬鹿みてェに毎日浮かれてたよ、今だって、夢だったら、嘘だったらって情けねェ程に考えてる……だが、君にこれ以上、嫌われたくねェからさ……っ、ただの親切なコックに戻るよ、レディ」
私はドッキリを後悔していた、今すぐにでも子供のように泣くサンジの頭を抱き締めて謝りたい。何が土下座だ、実際はどうだ。無償の愛と評価出来るような愛情を私に向けて、これ以上、嫌われたくないと泣いているのだ。
ドッキリ大成功なんてくだらない言葉を海に放り投げて、私はサンジの腰に勢い良く抱き着く。どうしたの、とグズグズな声で私を心配するサンジ。自分だって辛い筈なのに、大丈夫?おれの言い方が悪かったかな、と自身を責めるサンジは先程から優しく私の背中を撫でる。
「嘘ついてごめんなさい、私、あなたと別れたくない」
サンジは私の顔を隠すように抱き締めると、ドッキリだって知ってたよ、と口にする。
「だって、ナマエちゃんの目が俺を好きなままだから」
「……それなら、何で泣いているの」
「ドッキリって分かっていた筈なのにね、実際はこうだ。君に別れたいって言われた途端に頭の中は真っ白さ、それに、涙は情けねェほどに止まらねェし、手だって震えてる」
ほら、と私の目の前に出された右手は震えていてサンジの辛さを物語っていた。私はサンジの右手を両手で握ると謝罪を繰り返す。
「おれは別に怒ってねェんだ」
ただ、君に嫌われたくねェって、君とまだ一緒にいてェって、心と体が叫ぶんだ、そう言ってサンジはポロポロとまた涙をこぼした。
「嫌いになれるわけないじゃない」
「……なら、好き?」
目にたっぷりと涙を溜めながら、好意の確認をするサンジ。ドッキリと分かっていながらも自己肯定感の低いサンジは私の言葉を聞くまでは安心出来ないらしい。
「一生、あなたに恋をしているわ」
冷めない恋を打ち明ければ、サンジは幸せそうに笑って私を抱き締めるのだった。