短編
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ナミの怒号も拳骨も今の彼女には効かない、隣でロビンが困ったような笑みを浮かべながら体を揺する手も揺り籠を揺らすようなものだ。今の彼女の最大の敵は自然に閉じてしまう瞼と抗えない眠気だけだ、ふかふかのベッドに身を預けて、ふわふわの抱き枕に顔を埋める。
「寝るなって言ってるでしょ!」
頭にコツンと降ってくる拳をぎゅっと握って、ナミも一緒に寝よ、と二度寝のお誘いをする彼女。ナミは呆れたように溜息を吐くと、キッチンにいるサンジの名を叫ぶ。その横でロビンは、うふふ、と楽しそうに笑みをこぼしては彼女の頬をぷにぷにと突く。
サンジは女部屋の扉をノックする、中から返事が返ってくると秘密の花園を覗いてしまうような胸の高鳴りに目をハートにして、浮き立つ足で中に入る。
「お呼びですか?ナミすわぁぁぁん♡」
「あ、今そういうのいいから」
ナミはメロリーンとくねくねするサンジに雑なストップを掛けると一つのベッドを指差す。
「この子、起こして」
「あれ、ナマエちゃんはおねむなのかい?」
「……毎朝、毎朝、私達が着替えさせて覚醒するまで面倒見てるのよ。でも、今日はお手上げ」
だから、サンジくんにパス、と言ってナミはお茶目に舌をペロっと出すと逃げるように女部屋を出て行く。
「ふふ、この子意外と手強いわよ」
サンジの肩をポンと叩くと、ロビンもナミの後ろをついて行く。女部屋に放置されると思っていなかったサンジはポカンと口を開けたまま、閉じられた扉を数秒見つめると彼女のベッドに視線を移した。
こんもりと山をつくるベッドの上の塊に手をかけて彼女の姿を探す、ナミ達と話している間に器用に布団の中に隠れてしまったのだ。ナマエちゃん、と優しく呼びかけながら彼女の顔を覗き込むサンジを閉じてしまいそうな瞼の隙間から見つめる彼女。
「さんじだ」
「そう、君のサンジくん」
普段よりも幼い彼女の様子に内心荒ぶるサンジだが、表には出さず、蕩けそうな笑みを浮かべながら彼女の乱れた前髪を指で直す。彼女は子供のような笑みをサンジに向けると、さんじ、ねよ、と言ってサンジの腕を引っ張り、自身のベッドに転がす。そして、腕の中の抱き枕を投げ捨てて、サンジを抱き枕代わりにする彼女。
「ナマエちゅわ〜ん、おれは君を起こしに来たんだが……」
「ん〜、そっか」
そう言って彼女はサンジのシャツに顔を埋めて、また寝息を立てる。ナマエちゃん、ナマエちゃん、とサンジが肩を優しく叩いても、彼女はすぴすぴと穏やかな寝息を立てる。
「エッ、寝息まで天使……。いや、そうじゃねェ、ナマエちゃん起きてくれ」
「ん、やっ」
「嫌かァ♡」
起こしちゃ可哀想だ、と寝かし付けてしまいそうな自分自身の頬をパチンと叩くサンジ。そして、泣く泣く心を鬼にして彼女の体を揺らす。
「今日はナマエちゃんの好きなクロワッサンを焼いたんだよ、きっと君がこないだ買ってきた紅茶に合う筈さ。だから、朝メシ食ってくれねェかなァ、ナマエちゃん」
揺する手は随分と優しい、ナミの拳骨でも防げない眠気を追い払うにはきっと向いてない。ねェ、ナマエちゃん、起きて、とサンジは甘ったるい声で彼女の鼓膜を揺すると、彼女の少しだけ開いた口元に自身の唇を触れさせた。
サンジと彼女がキッチンに入ってきたのは、そこから数分後の事だった。サンジの腕に姫抱きにされた彼女は未だに眠そうな顔をしているが少しだけ頬が赤い。
「ったく、やっと起きたのね」
ナミの小言に頷いた彼女を愛おしそうに見つめながら、サンジはこう言った。眠り姫の起こし方はもう覚えたよ、と。