短編
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サンジの事を怖いと思ったのは、これがはじめてかもしれない。サンジ、と呼び掛けても、なぁに、と振り向いてくれる事はない。ただ、無言で私の手首を掴んで宿までの道を歩いている。普段だったら私と並んで歩けて嬉しいと花を飛ばしながら歩幅を合わせてくれる足は前へ、前へと進み、手を離されたら置いていかれてしまいそうだ。
「サンジ?」
「サンジ、どうかしたの?」
この後もサンジは無言の状態で宿まで歩いた、宿に着いてからも受付で二、三言喋っては相変わらず私には視線の一つも寄越さなかった。
サンジはキーに書いてある番号の部屋に入ると、ベッドに私を押し倒した。手はガッチリと固定され、足だってサンジの長い足によって動きを封じられている。なんで、こんな事するの、と情けない声をあげる私にサンジは自嘲気味にこう言った。
「……ナマエちゃんはおれの恋人って自覚ある?それとも、おれが誰かの代わり?」
サンジは私の腕をゆっくりとなぞりながら、軽蔑するように私を見た。誰につけてもらったの、と。
「これは違うわ」
怒りの原因を理解した私はサンジの顔を真っ直ぐに見つめると、笑わないで聞いてね、と前置きをしてから続きを口にした。
「これは私が自分でつけたやつ、です」
「……へ、ナマエちゃんが、自分でキスマークを?」
「だって、サンジにつけたいのに上手く出来ないんだもの。これは練習よ」
私の手を掴んでいたサンジの手が外され、サンジは泣きそうな顔で項垂れた。そして、ここまでの非礼を謝罪するかのようにサンジは正座をし、シーツの上に頭をめり込ませた。
「すまねェ、勘違いで君を傷付けた」
「……元は私のまどろっこしい行動のせいよ」
「おれは君の可愛らしい秘密を知れたからいいんだ」
でも、おれは一瞬でも君の愛情を疑っちまったから、と悲痛な表情を浮かべるサンジ。
「あなたの代わりなんているわけないじゃない」
加減していない力で握られた事も無視された事も私にとっては大した問題ではないのだ、戸惑いはするがそこに怒りはない。ただ、この言葉だけは嫌いだ。
「ごめんね、ナマエちゃん」
もう一生、言わねェって約束する、そう言ってサンジは子供騙しのような歌と一緒に私の小指に自身の小指を絡めた。
「……サンジなら針千本飲めちゃいそう」
「あれ、おれって信用ない?」
「まぁ、そうね」
そりゃあ、残念だ、そう言ってサンジは私の腰を自身の方に引き寄せる。そして、もう片方の空いた手で器用にネクタイを緩めるとベッドの上にネクタイを落とす。無防備に開かれたワイシャツからはサンジの白肌がチラチラと見えていて、変な気分になる。
「サンジ……?」
「レディ、ここにもキャンバスが」
サンジはワイシャツのボタンに手を掛けて、引き締まった体を見せ付けるようにして、私に妖艶に微笑みかける。
「練習台にどーぞ♡」
おれが馬鹿な勘違いをしないように君の愛でおれを染めてくれ、と言ってサンジは私の唇を指でなぞって、互いの唇が求めるままに口付けた。