短編
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懐かしい映画を見た、学生の頃に上映していた恋愛映画だ。中身は決して名作とは呼べない、年の差がある恋愛を都合良く描いただけのお涙頂戴映画。だが、私はそんな粗末な映画の一台詞が好きだった、時々、その台詞が頭を過る事がある。
先程までペラペラと映画について語っていた私が急に黙り込んだ事に不安になったのか、正面に座るサンジは私の目の前で手をひらひらと動かす。それに、はっ、としたように意識を取り戻す私にサンジはクスクスと笑いながら私の頭をくしゃりと撫でた。
「どこまでトリップしてたの」
「少し昔まで」
「おれも連れて行って欲しいなァ」
また、今度ね、そう言って、サンジが淹れてくれた珈琲に口をつける。この珈琲を飲んだら、もう外で珈琲を飲もうとは思わない。カフェインの摂り過ぎはよくないよ、とサンジに口酸っぱく言われたせいか缶コーヒーもここ数年、口にしなくなってしまった。
「……あの映画、サンジを思い出すの。んー、映画っていうか台詞かな」
「もしかして、家の門の前で彼女が叫ぶ所?」
サンジは一発で正解を導き出すと、私を見つめて台詞をなぞるように話し出す。
「おれは君を愛してるよ、だから言葉にする。デケェ声でなんべんでも君に愛を叫ぶよ、長ェメッセージで想いを伝えるよ。表情で、料理で、気に入ったスーツで、念入りにセットした髪で、あの手、この手でナマエちゃんへの愛を表現するよ」
「……っ、ふふ、台詞のパクりじゃない」
「オマージュと呼んでくれ」
サンジによく似合う台詞だ、きっと、これだって全部本心なのだろう。言葉を尽してくれるサンジに不安になった経験なんて一度もないし、何百回と愛を叫ばれてきた経験がある。素っ気ない私のメッセージに長文の返事、最後は決まって、早く君に会いてェ、の一言だ。表情は面白いくらいに蕩けきっているし、元々が美形なサンジはどれだけ顔面崩壊を起こしても可愛いのだ。それに、一番はサンジの料理だ。タダでいいの、と思わず聞いてしまった私にサンジは、恋人特権、と微笑んで私の胃袋を掴んでいった。それに、見た目だって同棲してから崩れた日が一度も無い。毎朝、一番素敵な状態のサンジが最高の料理と一緒に私をおもてなしするのだ。
「……サンジ以上の恋人っているのかしら」
「君が目移りしねェように、もっとアピールしといた方がいいかな?おれが優良物件なこと」
「身を持って知ってるわ」
いい恋人を持って幸せだわ、と腕を伸ばして肉付きの悪い頬を撫でれば、猫のように擦り寄ってくる。
私達の恋愛は決して名作とは呼べない、同年代の日常をただ描いただけのドキュメンタリー映画。だが、私はそんな日常が好きだった、手を伸ばせば、届く位置に愛している存在がいて、愛を伝えてくれる。
「ねぇ、サンジ」
「ん?」
「私もちゃんと言葉で言うわ、あなたを愛してるって」