短編
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サンジはレディ以外にも優しい、野郎に親切にする義理はねェと言いながらも元々の本人の気質だろうか。無自覚の親切を振り撒いてはファンを増やす、大人に限らず子供もサンジの優しさに絆されて手料理で胃袋を掴まれ、いつの間にかファンになっている。私は目の前の少年とサンジの戯れを見ながら密かにそのポジションを狙っている、サンジのポジションではなく少年の方だ。サンジの膝に頭を預けて、サンジが読む絵本のストーリーに釘付けの少年は昨日までは懐かない猫のようにサンジが差し出した手に爪を立てていたのに一晩で絆されてしまったようだ。未だに私に対しては警戒心マックスの視線を向けてくるが、サンジに対してだけは飼い猫のように懐いている。
「……そこは私だけのものよ」
幼い子供にヤキモチを妬くなんて私らしくもない、サンジがどんなレディに骨抜きにされようが今まで何も思わなかったのに今は少年の首根っこを持ってサンジの膝から下ろしてしまいたい。だけど、大人だからそんな事は出来ない。目的地に少年を無事に送り届ける間、ずっとこの警戒心マックスの視線を浴びるのはストレス極まりない。少しでも良い大人でいる方がきっと利口だ。私は一頁も進んでいない小説を閉じて、二人に一度だけ視線を向けてから甲板に出る。随分と幸せな光景だ、ここが海賊船とは思えないぐらいに穏やかな時間がアクアリウムバー内には流れている。私の胸中だけが穏やかではない、勝手にサンジを取られた気になって拗ねる私は大人のフリをしただけの子供だ。
「ナマエちゃん」
「あれ、あの子は?」
「ぐっすり」
だから、男部屋に運んで来た、とサンジは肩を回しながら困ったように笑う。
「まるでママね」
「パパじゃなくて?」
「母性全開って感じ」
私の言葉がツボに入ったのかサンジはくすくすと笑う。誰が見ても母親のようだった、と続ける私にサンジはせめてパパにしてと肩を竦めてみせる。
「それでどうしたの?」
「ん?」
「あの子とお昼寝でもしてくればいいのに」
少しだけ嫉妬心が顔を出して余計な事を言ってしまった、本当は私の所に来てくれて嬉しいと思っているのに本心とは真逆の言葉が口から飛び出す。
「迷惑だったかい?」
「そういうわけじゃないけど……」
「なら良かった、それで君はどっちに対してヤキモチを妬いてるんだい?」
ガキに好かれてるおれか、それともおれを離してくれねェガキのどっちかな、とサンジは指を二本立てて選択肢を寄越す。
「な、何の話」
「話の続きはアクアリウムバーで」
サンジは私の手を掴むと革靴を鳴らして先程までいたアクアリウムバーに戻る。中に入るとソファに座り、私の手を引く。よろけた体はサンジの手によって支えられ、気付いた時にはサンジのスラックス越しの太腿が私の頭を支えていた。
「……何で分かったの」
「君の恋人だからかな」
「また、適当言って」
「適当なんかじゃねェよ、君の瞳はお喋りだから」
恋人のおれに沢山お話してくれるんだ、とサンジは言う。なにそれ、と不貞腐れたような返事を返す私の頭を撫でながらサンジは柔らかな笑みを浮かべる。
「絵本も必要かい?」
「いらない」
「なら、絵本の王子様は?」
「っ、ふふ、金髪しか合ってないじゃない」
絵本の王子様は煙草の香りなんてしない、勿論、髭も生えていない。ちぇ、っとつまらなさそうな顔をするサンジのネクタイを自身の方に引っ張れば垂れ目がちな瞳がこちらを向く。
「私の王子様は絵本には出てこないの」
「なら、どこにいるの?」
「目の前かしら」
分かりきった答えを聞いたサンジはそれはそれは嬉しそうに私の唇に自身の唇を合わせた、ディープ過ぎるキスは絵本の王子様には荷が重そうだ。
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