短編
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滞在中は嫉妬をしている暇なんて無かったが、エレジアを出航した途端に先程の光景ばかりが頭に浮かぶ。あの時のブリュレちゃんはきっとサンジに惚れた、惚れないにしてもポイントは稼いだだろう。プリンちゃんに引き続き、サンジはシャーロット家からモテる運命なのだろうか。それが何だか面白くなくて、エレジアを出てからサンジとロクに話せていない。むしろ、あっちは私の周りを犬のようについて回り、ナマエちゃん、ナマエちゃん、と泣きそうな声をあげているが、その全部に私はだんまりを決め込んでいる。
そんな私達を見兼ねたナミは私達をキッチンに押し込んで、面倒くさいからちゃんと話し合いなさい、と頭に一つずつ拳骨を落として出て行った。愛の鞭にしては随分と乱暴だが、もうサンジから逃げようという気は起きなかった。サンジは殴られた場所を擦ると、手際よく紅茶の準備をはじめる。
「自分のカップもちゃんと持ってくるのよ」
カップを一つだけ用意しようとしているサンジの背中にそう声を掛ける。ナマエちゃんとお茶会かァ、と鼻歌を飛ばしながら自身のカップを戸棚から出すサンジ。
「お待たせいたしました」
落ち着くハーブティーの香りにささくれ立っていた心も少しずつ正気を取り戻す、紅茶の揺れる水面を眺めながら、私はやっと口を開く。サンジは隣の椅子に腰を下ろすと私の言葉に耳を傾ける。
「……サンジなんて、ずっとメロメロしてればいいのにって思ってた」
サンジは私の言葉をなぞるように、メロメロ、と口に出すと私の言葉の意味をちゃんと理解しようとしているのか、続きを促す。
「鼻の下を伸ばして、鼻血を吹き出しているような不細工でいなさいよ」
「ぶ、不細工……」
自身の顔を両手で覆いながら、おれって君の恋人だよね、と確認を取ってくるサンジは絶望の表情を浮かべている。
「だって、そのままじゃ皆、サンジを……」
「おれを?」
「好きになっちゃうでしょ、私のサンジなのに」
サンジの肩に頭を埋めて、やだ、やだ、と子供のように首を横に振る私。
サンジだって呆れてしまうかも、と正気に戻った所でサンジの長い腕が私の背中に回された。
「なァ、ナマエちゃん」
「……何よ」
「おれ、前から結構モテるんだよ?バラティエにいた頃なんかはお姉様達に普通にしてたら王子様だって言われてたし」
何で傷口に塩を塗ってくるんだ、とサンジを睨めば、サンジはやけに上機嫌な様子で私を見つめている。
「性格悪い」
「っ、はは、悪ィ。だけど、勘違いしねェでね。おれは君にモテてれば十分なんだ、王子様だって持て囃されるより君に不細工って言われながら愛される方が魅力的さ」
それに、こんな意地悪して気を引きたいのもナマエちゃんだけだよ、そう言ってサンジは私の両頬に手を添える。
「意地悪ばっかりしてると私に嫌われるわよ」
「残念、そんな日は来そうにねェなァ」
「すごい自信ね」
「だって、君の目がそう言ってる」
あなたの目だって同じくらいうるさいわ、と私がサンジの前髪を手で退かせば、サンジの両目の碧が愛を叫ぶように輝いた。